表紙 資料3 非公開 (素案) 「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における差別事案に係る検証について(最終報告) 令和6年●月●日 「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における差別事案に係る検証委員会 目次《1ページ目》 第1.検証委員会の目的と設置の経緯 1 「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における不適切な事案について (1)事案の概要 (2)当日の状況 2 検証委員会の設置 (1)設置目的 (2)設置経過 (3)委員構成 3 検証委員会の開催経過 第2.討論会の開催に至る経緯 1 発案・企画 2 事前準備 (1)「名古屋城バリアフリーに関するアンケート」の実施 (2)討論会への参加者の決定 (3)YouTube配信の実施 (4)委託契約 第3.討論会後の状況 1 主催者(観光文化交流局)による事後の対応 2 総務局・スポーツ市民局・健康福祉局が現在までに行った対応 (1)全庁会議等における周知・徹底 (2)職員研修への反映 (3)関係マニュアル等の改訂 (4)人権監理者の設置等 第4.木造復元事業の推進過程において人権に関する意識に影響を与えた背景や遠因等 1 名古屋城天守木造復元事業の主な経緯 2 木造復元天守内の階層間の移動方法に関する市の方針の変遷 目次《2ページ目》 第5.事案における問題点と検討 1 「討論会」とされた経緯 (1)「討論会」の目的の不明確さ (2)「討論会」の名称の不適切さ 2 事前の準備 (1)毎年実施してきた市民向け説明会とは異なる特殊性 (2)問題発生の想定の甘さ (3)スケジュール設定の無理 (4)委託業者との連携体制の不十分さ (5)人権侵害のリスクの想定不足 3 当日の運営の実施・責任体制 (1)運営・進行に関する認識と意識の共有不足 (2)差別発言への対応 (3)差別発言に対する市長のコメント 4 市が差別事案に対して適切な対応ができなかった背景・遠因等 (1)史実に忠実な復元の解釈の不一致 (2)市民への正確な情報提供の不十分性 (3)職員の苦悩や葛藤の影響 (4)公募選定後に無作為抽出によって市民討論会を開催した手法等 第6.再発防止に向けて取り組むべき事項 1 中間報告時点(令和6年2月14日)における提言 (1)職員研修の充実 ア 人権意識・人権感覚の育成 イ 障害及び障害者理解の一層の促進 (2)障害者差別解消の推進に関する法律、条例の周知徹底 (3)人権施策推進会議(局長級)・幹事会(課長級)の企画運営の見直し (4)差別事案発生防止のための体制づくり (5)差別事象マニュアルの抜本的見直し (6)市民・事業者の障害及び障害者理解の一層の促進 目次《3ページ目》 (7)対話によるバリアフリーを推進するための仕組みの整備 (8)その他 2 市民からの信頼回復に向けた最終提言 (1)障害者差別解消の推進に関する条例の改正 (2)実効性のある人権条例の制定 第7.おわりに 参考資料 《以下、本文素案 ページ番号は報告書の各部分ごとに必要に応じて附番されており、漏れやダブりがあるため、テキストデータにおいては通しで記載をする》 第1.検証委員会の目的と設置の経緯 1「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における不適切な事案について (1)事案の概要 令和5年6月3日に名古屋市が開催した名古屋城バリアフリーに関する市民討論会(以下「討論会」という。)において、一部の参加者から他の参加者に対する差別発言がなされ、言い合いが生じる場面があった。 その場にいた職員は、言い合いを制止するため駆けつけたが、その後、別の参加者から差別用語を含む差別発言がなされたことも含め、発言の制止や注意喚起などの適切な対応を行わなかった。さらに、討論会終了後においても、差別発言に対する市としての説明や謝罪などの対応も行わなかった。 (2)当日の状況 ア 市民討論会の進行 (1)開会 (2)市長あいさつ (3)講演 (4)市からの説明「名古屋城木造天守復元とバリアフリー」 (5)討論会 《四角囲み開始》1整備に関する有識者からのコメント 2参加者から提出された質問についての有識者や職員による回答 3参加者(市民A~E)から提出された意見を紹介し、提出した本人による補足説明 4参加者の挙手による自由発言(市民FからH) 《下線開始》注:ここで差別発言が発生した《下線終わり》《四角囲み終わり》 (6)市民アンケート結果の発表 (7)市長あいさつ (8)閉会 イ 差別発言に係る状況等 〇司会が、市民E (車いす利用者)が提出した意見を読み上げ、市民Eに補足説明を促した。 〇市民Eが補足説明をした。 「(略)名古屋城、大阪城はエレベーターで上がれていました。何回も上がりましたけど、新しくするとそれが無くなるっていうね。今まであったものを失くしてしまうというのは、我々障害者が排除されているっていうふうにしか思えない」 「史実に忠実にこしらえるっていう話、それは反対してませんよ。ただ皆が同じように同じ階層に行って見られるっていうのであれば、(中略)外付けで、中身を傷つけない、空から渡り廊下で上がれるようなね、そういったものを後で付けるとかそういうことをしてもらわないと」 「(略)VRで見ろとかそんなものでは我々は納得できない。排除されているっていうふうに感じてるんですよ。だからこの討論会をアリバイ作りにしてもらってもいかん。ちゃんとした前向きな方針を教えて欲しい(略)。」 〇司会が、市担当者に方針の説明を求めた。 〇市担当者が、外付けのエレベーターに対する考え方等について回答をした。 〇意見紹介の時間を終え、自由発言の時間とするよう求める声が会場から上がった。 〇司会が意見紹介を終了し、挙手による自由発言を促し、市民Fを指名した。 〇市民Fが差別発言をした。 「そちらの車いすの方と名古屋市の方がやってるやり取りを聞いて、このまま4時10分で終わるとバリアフリーをどうやって進めていくかっていう会で終わるはずなんですね。私の結論をMうとまっぴらごめんで、平等とわがままを一緒にすんなって話なんですよ。」 「(略)河村市長が造りたいと言ってるのは、エレベーターも電気も無い時代に造られたものを再構築するって話なんです。その時に何でバリアフリーの話が出るのかなっていうのが荒唐無稽で、ピラミッドの改修するときにエスカレーターをつけようやって言ってるのと一緒なんですよ。どこまで図々しいのって話で、我慢せいよって話なんですよ。」 〇市民Eと市民Fとの言い合いとなり、市民Fがさらに発言をした。 「お前が我慢せいよ。月に1回も行くような話じゃないじゃないの。(略)」 〇職員が市民Eと市民Fの言い合いを制止した。 〇司会が挙手した市民Gを指名した。 〇市民Gが差別発言をした。 「(略)僕らね、産まれながらにして不平等があって平等なんですよ。(障害者を示す差別用語)で産まれるかもしれないけど、健在者で産まれるかもしれん。それは平等なんですよ。」 「だけどそのためには、今ある、今お城の中にあると思うんだけど、剣とか着物、いろんなものがまだ鉄筋の中のお城にあると思う。あれを宝物館みたいなものをつくって、そこで示して、展示物があったと思うけど宝物館を造って、そして今見せてもらったイメージVRっていうの、あれをもうちょっと綺麗に本物で造ったらもっと素晴らしいものができる。それで行くべきじやないかと思うね。これはまたエレベーターを造ると言った次の建物はまたエレベーターや。誰がメンテナンスするの。どの税金でメンテナンス毎月するの、そうでしょ。そんな金はもったいないと思うけどね。もっと使うところにお金を使いたい。毎月毎月メンテナンスしないかん、エレベーター使ったら。ただでエレベーターが動くわけない、電気が要る。そのための人も、必要な人も居る。でしよう。だからエレベーターは必要ない。私は思いますがどうですかね。(略)」 〇一部の参加者が拍手をした。 ウ 障害者差別についての法令と今回の差別発言について 障害者差別について規定されている「障害者基本法」及び「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」においては、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることな く、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会(共生社会)の実現が掲げられている。 また、障害者基本法においては、共生社会の実現は、全ての障害者が、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会力褪保されることを旨として、図られなければならないとされている。 これらの法の趣旨を踏まえ制定された「名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例(障害者差別解消推進条例)」においても、障害の有無にかかわらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の実現を目的とするとともに、全ての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会力褪保されること力堪本理念として掲げられている。 「そちらの車いすの方」との発言に引き続く、障害者がエレベーターの設置を求める意見を述べたことに対する、「わがまま」、「図々しい」、「我慢せい」といった発言は、障害のある方とない方を分け隔てた上で、障害者のみに我慢を強いるものである。 また、直接差別用語を用いながら、「産まれながらにして不平等があって平等」、「そんな金はもったいないと思う」といった発言は、障害のある方とない方を分け隔てた上で、障害者が障害のない方と同じようにあらゆる分野の活動へ参加する機会を確保する必要はないというものである。 いずれも、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現や、全ての障害者が、社会を構成する一員としてあらゆる分野の活動に参加する機会が確保されることといった、上記法令に反するものであり、明確な障害者差別である。(以下、関係法令の抜粋(特に関連する部分に下線))。 〇障害者基本法(昭和45年5月21日法律第84号) (目的) 第一条 この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。 (略) (地域社会における共生等) 第三条 第一条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んせられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。 一 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。 (略) 〇障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年6月26日法律第65号) (目的) 第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 〇名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例 (平成30年12月20日条例第61号) (目的) 第1条 この条例は、障害を理由とする差別の解消の推進に関し、基本理念を定め、市、事業者及び市民の責務を明らかにするとともに、障害を理由とする差別の解消を推進するための基本となる事項を定めることにより、障害の有無にかかわらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。 (略) (基本理念) 第3条 障害を理由とする差別の解消の推進は、障害の有無にかかわらず、誰もが等しく基本的人権を生まれながらにして有する個人として尊重され、地域で自立した生活を営む権利が保障されることを前提として、次に掲げる基本理念に基づき行う。 (1)全ての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。 (略) 2 検証委員会の設置 (1)設置目的 討論会は、市民からの自由な意見をうかがう場であったとしても、差別的言動が許されるものではなく、発言を受けた当事者だけでなく、他の参加者や動画配信を視聴されていた方、事後に報道でこの事案を知った多くの方々に不快な思いを抱かせることになり、市民団体等からは第三者委員会による検証を求める申し入れもいただいた。 本市としては、こうした事態を重く受け止め、人権擁護の観点から、今回の事案の問題点や課題等を整理・分析し、必要な調査・検討を行い、原因を究明のうえ再発防止を図るため、令和5年8月に「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証委員会」を設置した。(参考資料1:設置要綱) (2)設置経過 6月3日 名古屋城バリアフリーに関する市民討論会開催(主催:観光文化交流局) 6月5日 市民団体から市長に対し、抗議及び回答を要求 6月6日 名古屋市会経済水道委員会において、「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会での市民の発言に対する当局の対応について」所管事務調査実施 6月13日 市民団体から市長に対し、第三者委員会設置の申入れ 6月14日 名古屋市会総務環境委員会において、「本市における人権に対する認識等について」所管事務調査実施 6月15日 名古屋市会財政福祉委員会において、「障害者差別に関係する法令等の基本的な考え方について」所管事務調査実施 6月15日 名古屋市会経済水道委員会において、「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会での市民の発言に対する当局の対応について」所管事務調査実施 6月15日 障害者団体から市長に対し、第三者委員会の設置を要求 6月21日から23日 人権施策を所管するスポーツ市民局において、討論会に関係している観光文化交流局の主な管理職職員6名へのヒアリング調査を実施 6月29日 名古屋市会総務環境委員会において、「本市主催討論会に係る人権の観点からの調査について」所管事務調査実施。観光文化交流局職員6名へのヒアリング調査を報告し、外部学識経験者を含めた検証チームを設置することを表明 6月30日 名古屋市会経済水道委員会において、「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会での市民の発言に対する当局の対応について」所管事務調査実施 8月18日 「『名古屋城バリアフリーに関する市民討論会』における差別事案に係る検証委員会」設置 8月23日 名古屋市障害者施策推進協議会から市長に対し、「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会に対する意見書」を提出 (3)委員構成 検証委員会は、第三者の立場から公平・公正に検証していただく外部の学識経験者に加え、市主催の討論会で発生した事案であることから、市として真摯に反省しつつ、今後どのようにすべきかを、行政の視点からも責任を持って検証・検討するため、行政職員も構成員に含めることとした。行政職員については、人権施策の推進、障害者理解、職員の人材育成を所管する局からそれぞれ選定した。 ア 任期:令和5年8月18日から令和6年3月31日まで(区分ごとに五十音順) 学識経験者 氏名:浅田知恵 所属・役職等:愛知教育大学教育学部教授 氏名:小林直三 所属・役職等:名古屋市立大学大学院教授 名古屋市人権施策の推進にかかる有識者懇談会委員 氏名:田中伸明(検証委員長) 所属・役職等:弁護士内閣府障害者政策委員会委員 名古屋市障害者差別解消支援会議委員 行政 氏名:杉浦弘昌 所属・役職等:総務局長 氏名:杉野みどり(会長) 所属・役職等:副市長 氏名:鳥羽義人 所属・役職等:スポーツ市民局長 氏名:平松修 所属・役職等:健康福祉局長 注:会長は会を統括し、議事(調査・検討にかかる議論等を除く。)を進行する。 注:検証委員長は調査・検討にかかる議事を進行し、議論を統括する。 イ 任期:令和6年4月1日から(区分ごとに五十音順) 学識経験者 氏名:浅田知恵 所属・役職等:愛知教育大学教育学部教授 氏名:小林直三 所属・役職等:大阪経済大学国際共創学部教授 名古屋市人権施策の推進にかかる有識者懇談会委員 氏名:田中伸明(検証委員長) 所属・役職等:弁護士内閣府障害者政策委員会委員 名古屋市障害者差別解消支援会議委員 行政 氏名:杉浦弘昌 所属・役職等:総務局長 氏名:杉野みどり(会長) 所属・役職等:副市長 氏名:田嶌仁美 所属・役職等:健康福祉局担当局長(地域共生社会推進) 氏名:鳥羽義人 所属・役職等:スポーツ市民局長 3 検証委員会の開催経過 令和5年8月30日 第1回検証委員会 事案の概要等を確認・共有 検証の進め方について協議 令和5年10月6日 第2回検証委員会 討論会後に市が行った見直し事項の共有 検証の範囲等を協議 ヒアリング調査の対象者等を協議 令和5年10月23日から11月13日 学識経験者委員によるヒアリング調査の実施 対象者 ・市長はじめ関係職員(8名) ・討論会運営業務の委託業者(2名) 令和5年11月20日 第3回検証委員会 ヒアリング調査結果の共有 事案に対する問題点等を協議 検証報告の構成イメージを協議 令和5年12月18日 第4回検証委員会 問題点に関する意見集約 中間報告の内容を協議 令和6年1月29日 第5回検証委員会 中間報告の内容を協議 修正を加えた後に公表することを決定 令和6年2月14日 市長への中間報告提出 討論会に直接的に関わる検証結果について、中間報告にまとめて公表 令和6年4月18日 第6回検証委員会 検証の進め方について確認 背景事情や遠因及び再発防止策を協議 ヒアリング調査の対象者等を協議 令和6年5月13日から5月28日 学識経験者委員によるヒアリング調査の実施 対象者 ・市長はじめ関係職員(4名) 令和6年6月17日 第7回検証委員会 ヒアリング調査結果の共有 最終報告の構成イメージを協議 令和6年6月19日 障害者団体への調査(書面) 対象団体 ・12団体 令和6年7月16日 第8回検証委員会 最終報告の内容を協議 市民の信頼回復のための取り組みについて協議 令和6年7月25日 学識経験者委員による障害者団体への聞き取り 対象団体 ・調査依頼をした団体のうち、追加意見の提出が必要とした団体 令和6年8月29日 第9回検証委員会 第2.討論会の開催に至る経緯 1 発案・企画 平成30年5月に、「木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針」(以下「付加設備の方針」という。)(参考資料2)を公表 注 参考:名古屋城のバリアフリーに関する経緯(参考資料3) 令和4年4月18日に、「名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募」開始 ・主な審査基準:(最低要求水準)柱・梁を傷めることなく1階まで昇降できる (加点要求水準)できるだけ上層階まで昇降できる ・審査基準等については、ワークショップ等を通じて障害者団体等から意見を聴取しながら決定 令和4年12月2日に、「名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募」最優秀者の選定 ・最優秀者:株式会社MHIエアロスペースプロダクション ・提案技術:フェリー等の船舶内及び航空機搭乗機材への導入実績のある技術をベースに開発を行い、史実に忠実に復元された名古屋城木造天守の狭小空間に設置を可能とする垂直昇降設備(以下、公募で選定された新技術を『昇降技術』と表記する。) 令和4年12月5日に、市長定例記者会見実施 ・会見後、『昇降技術』・エレベーターに対する市民等から意見(令和4年12月から令和5年1月 賛成8、反対20)(参考資料4:名古屋城木造天守への昇降機設置へ の賛否まとめ(令和5年2月7日実施の観光文化交流局所管副市長(以下「所管副市長」という。」)レク資料)) ・市長・所管副市長の元へ、設置に反対の意見多数 令和5年3月以降、名古屋城総合事務所からの提案で、市民全体としての意見を聴取するための市民アンケート及び討論会に関する報告・調整を観光文化交流局長(以下「局長」という。)、所管副市長、市長に対し合計31回実施(以下、それぞれ「局長レク」「所管副市長レク」「市長レク」という。)(参考資料5 :実施日付等) 2 事前準備 (1)「名古屋城バリアフリーに関するアンケート」の実施 調査時期:令和5年4月19日から5月8日 対象:18歳以上の名古屋市に居住する5000人(住民基本台帳上から層化無作為抽出) 回収率:29.0% 送付物:「名古屋城バリアフリーに関するアンケートへのご協力のお願い」(以下「アンケート協力お願い文」という。)「アンケート調査票」「市民討論会に参加を希望される方へ」(参加申込書併記)「名古屋城バリアフリーに関する説明資料【アンケート調査用】」 (2)討論会への参加者の決定 (1)のアンケートに同封の参加申込書を提出した市民56人のうち、市民討論会へ36人が参加 (3)YouTube配信の実施 市民に開かれた会にすべきとの考えのもと、アンケートを送付し希望された方以外にも、速やかにありのままを伝える手段としてライブ配信を実施 (4)委託契約 アンケート及び討論会の実施にあたっては、令和5年4月3日付で委託事業者(安井建築設計事務所)と契約締結 注:以下の条件を満たす事業者として随意契約 (ア)名古屋城木造天守復元の意義や根拠、バリアフリーに対する本市の考え方を含めた復元計画等を熟知していること (イ)「名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募」により選定した最優秀者の昇降技術の概要や設置条件等を熟知していること 第3.討論会後の状況 1 主催者(観光文化交流局)による事後の対応 討論会の終了直後には、何ら対応をしていない。 後日、当該参加者を含む討論会参加者へお詫び文を郵送 2 総務局・スポーツ市民局・健康福祉局が行った対応 差別事案を受けて、市内部で検討等を行った事項(中間報告時に提言した再発防止に向けて取り組むべき事項への対応を含む) (1)全庁会議等における周知・徹底 市役所庁内の次の会議において、本差別事案の問題点の共有及び職員用の「差別事象対応マニュアル」等を改めて周知・徹底 ・人権施策推進会議 ・障害者差別解消庁内推進会議 (2)職員研修への反映 市民討論会での差別事案発生以後に実施した人権科目のある研修において、市民討論会での差別事案や差別事案への対応等を確認する内容のほか、「差別事象対応マニュアル」を周知するスライドを追加する等により講義を実施 (実施した研修) ・新規採用者福祉施設研修 ・2年目職員研修 ・3年目職員研修 ・中堅職員研修 ・主任・技能主任研修 ・人権指導者養成研修 ・係長昇任研修 ・職場内人権研修 (3)関係マニュアル等の作成等 ア 「差別事象への対応について(対応マニュアル)」を改訂(令和5年7月) ・対応フローの見直し ・対応ポイントの明記 イ 「名古屋市職員差別事象対応ガイドブック」の作成(令和6年8月) ・事象別の対応手順や対応事例等を掲載 ウ 「差別用語集」の作成(令和6年8月) ・職員の研修用に、差別用語、不適切用語、注意が必要な言葉の3区分に定義した上で、用語を整理 エ 「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領(市職員対応要領)」を改正(令和5年12月) ・差別事案を踏まえた再発防止の心構えの追加 ・具体的な対応方法の追加等 (4)人権監理者の設置等 人権監理者を各局室区に1名以上設置し、人権に関わるイベント等のチェックをするとともに、事業所管課から相談を受け、助言・指導を実施する体制の構築 実効性を担保するため、人権監理者を育成する専門研修を検討 第4.木造復元事業の推進過程において人権に関する意識に影響を与えた背景や遠因等 上記、第2及び第3では市民討論会に直接的に関わる経緯や状況等について記述した。 本件は名古屋城木造復元事業の整備検討に伴うバリアフリーに関する課題が根幹にあることから、市民討論会から更に過去にさかのぼり、当該事業全体の流れや、事業を進めるにあたって市が説明等を行ってきた内容の変遷状況等について以下に示す。 1 名古屋城天守木造復元事業の主な経緯 名古屋城木造復元事業におけるバリアフリーに関わると思われる主な経緯は以下のとおりであった。 平成26年6月 本会議質問(記憶に残る名所としての名古屋城の観光の魅力向上について) 「文化庁は木造での復元しか認めない」と市長答弁 平成27年12月 プロポーザルによる整備事業者の募集 平成27年12月から平成28年1月 名古屋城天守閣の整備タウンミーティング 16区、計2,632人来場 平成28年3月 プロポーザルで優秀提案として選定された、竹中工務店の提案の公表 大天守地層から4層に小型エレベーター、4から5層はチェアリフト設置を検討項目として記載 平成28年5月 名古屋城天守閣の整備市民向け報告会 5回、計876人来場 平成29年11月 特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議天守閣部会 エレベーターを設置しない市の考えが報道 平成30年1月 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 5回、346人来場 平成30年1月 名古屋城天守閣木造復元シンポジウム 1回、313人来場 平成30年5月 木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針 新技術の開発や可能な限り上層階を目指すことを明記 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 5回、計298人来場 平成30年7月 第1回バリアフリー説明会 階段の昇降技術を持つ企業4社から、障害者団体に対し、その技術・製品の説明をし、障害者団体から意見聴取 平成30年11月 第2回バリアフリー説明会 パワーアシストスーツなどの企業から説明をし、障害者団体から意見聴取 平成31年1月 名古屋城天守閣木造復元シンポジウム 1回、計121人来場 令和元年8月 史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループ(文化庁) 「天守等の復元の在り方について(取りまとめ)」(以下「文化庁復元WG取りまとめ」という。)を公表 令和元年8月 名古屋城木造天守閣の昇降技術公募に関する審査基準作成のワークシヨップ開催 審査基準について、障害者団体から意見聴取 令和元年11月 公募に関する審査基準作成のワークショップ開催 審査基準について、障害者団体から意見聴取 令和元年11月から12月 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 8回、計448人来場 令和2年4月 文化庁が、「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」を決定(以下「文化庁復元基準」という。) 平成27年度決定の「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」を見直し 令和3年1月 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 3回、計153人来場 令和4年1月 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 3回、計208人来場 令和4年4月 名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募開始 1階までを最低基準とし、より上層階を目指す 令和4年8月 提案書の提出期限 令和4年8月 評価員・技術相談員会 令和4年9月 公募ワークショップ(計4回開催) 提案技術について、高齢者(2回)、障害者等(2回)から意見聴取 令和4年9月 評価員・技術相談員会 令和4年10月 技術対話 令和4年11月 提案書の再提出期限 令和4年11月 審査 令和4年12月 名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募 最優秀提案の公表 昇降技術によりできるだけ上層階までの設置を目指す案の採用 令和5年1月 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会 1回、217人来場 令和5年1月 名古屋城シンポジウム 1回、445人来場 令和5年3月 本会議質問(名古屋城天守閣木造復元について) 「市民意見を聴取する機会を設ける」ことを所管副市長答弁 令和5年4月 名古屋城バリアフリーに関する市民アンケートの実施 回答数1,448 令和5年6月 名古屋城バリアフリーに関する市民討論会 36人来場 差別発言に対して市職員が適切な対応を行うことができなかった。 2 木造復元天守内の階層間の移動方法に関する市の方針の変遷 木造復元天守におけるバリアフリー対応の変遷を、次のア~ウの3つの段階に大別した。また、それぞれの段階における市民への説明等は以下のとおりであった。 《囲み開始》 ア 木造復元の検討~エレベーターを設置しない考えが報道されるまで ・竹中工務店による小型エレベーターの設置する提案について、今後、有識者の意見等含め考える。 ↓ ・エレベーターは設置せず、代替手段による合理的配慮を考える。 イ 市エレベーターを設置しない考えであるとの報道から公募結果の公表まで ・エレベーターを設置せず、新技術の開発を通してバリアフリーに最善の努力をする。 ↓ ・様々な工夫により、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指す。 ・新技術の開発には、国内外から幅広く提案を募る。 ウ 公募結果の公表後 ・国際公募で選定した新技術(昇降技術)の設置について、市民のみなさまのご意見を頂戴し、方針を決める。 ↑上記の方針を決めた背景は次のようであった。 《囲み開始》・市長は、公募で選定した昇降技術を「エレベーター」であるとして、設置そのものに否定的な見解を名古屋城総合事務所に示した。 ・所管副市長や職員は、行政として適正手続きを経た公募結果であり、市長への説得を続けたが、説得が困難な状況であった。 ・所管副市長や職員は、市長に直接市民の声を聞いてもらい、合理的、理性的な判断をいただこうと考えた。《囲み終わり》《囲み終わり》 第5.事案における問題点と検証 1「討論会」とされた経緯 (1)「討論会」の目的の不明確さ ア 問題点 討論会の目的が、アンケートで市民から意見をいただいたうえで、その意見を直接聞くためであったことから、討論会での参加者の発言は、市民にアンケートでうかがった内容に関わるものと考えられるため、まずはアンケートに着目した。 市において、平成30年5月に公表された付加設備の方針において、「史実に忠実に復元するためエレベーターを設置せず、新技術の開発などを通じてバリアフリーに最善の努力をする」と定め、令和4年4月に「可能な限り上層階まで(少なくとも大天守1階に)昇降できる技術」の公募を開始し、同年12月に最優秀者を選定したにも関わらず、アンケートに、『昇降技術』を「設置しない」との選択肢を記載したことは疑問である。このような選択肢がアンケートに記載されたことは、『昇降技術』を市が公募で選定した後においても、「設置しない」可能性を残しているとのメッセージを市民に対して発したことになったと考えられる。 そうすると、『昇降技術』を「設置しない」との選択肢を記載したことが、討論会における意見交換の場において、主催者である市が前述した公募の経緯を無視する形で、『昇降技術』を設置しない立場の発言を容認する姿勢を示したと受け取られたとしても仕方がなく、不要な意見の対立を討論会にそのまま持ち込むことにつながったと考えられる。 このような市の姿勢が、差別発言を生じた土壌を形成しているとも考えられることから、『昇降技術』を「設置しない」との選択肢がアンケートに記載された経緯について、検証を行うこととした。 イ 確認した事実 ・討論会の目的は、参加申込書と同封のアンケート協力お願い文に、「今回のアンケートは、復元する木造天守への『昇降技術』の設置について、市民のみなさまのご意見を頂戴し、名古屋市の方針を決めてまいりたいと考えております。また、希望者のみなさまを対象に市民討論会を行い、ご意見を直接お伺いしたいと考えております。」と記載され、市民に送付していた。(参考資料6 :アンケート協力お願い文) ・アンケートでは、「公募により選定された最優秀者の『昇降技術』の設置について、あなたの考え方は以下のうちどれですか」という設問の選択肢に「設置しない」という選択肢があった。(参考資料7 :「アンケート調査票」問4) ・職員ヒアリングによれば、「設置しない」という選択肢を設定したのは、『昇降技術』設置に反対の市民意見も多く届いていたので、反対も含めてフラットに聞く必要があると考えていたとのことであった。 ・当初のアンケート案(参考資料8 :アンケート調査票(案)(令和5年3月30日実施の市長レク資料))では、『昇降技術』の設置についてどう思うかとして、「設置に賛成」「設置に反対」「どちらでもない」の3択を用意し、さらに「設置に賛成」と回答した人に対し、「1階まで」「2階まで」「3階まで」「4階まで」「5階まで」「わからない・その他」として、何階まで設置するのがよいかの考えを聞く選択肢であったのが、令和5年3月30日の市長レクを踏まえて、両設問を統合し「設置しない」「1階まで」「最上階まで」「わからない・その他」を聞く形に変更していた。 ・アンケートに同封の「名古屋城バリアフリーに関する説明資料【アンケート調査用】」について、検討段階では、各階の図面が記載されていたが、最終的には地階と1階の図面のみとなっていた。 ・市長ヒアリングでは、市長は、『昇降技術』が実際に何階まで設置できるかわからないので、市民が誤解するような各階の図面は示してはいけないという指示をしていたことを確認した。 ・どの階まで設置できるのかについては、所管副市長から例年8月に開催されている文化庁の復元検討委員会への整備基本計画の提出を目標に意見聴取などを速やかに進めるよう指示を受けていたため、『昇降技術』を実際に何階まで設置できるのか、6月の討論会を開催する前までには厳密な検証を行う時間がなく、示せなかったとのことであった。 ・アンケート協力お願い文に記載の意見聴取の目的について、当初は、「『昇降技術』をどこまで設置するのか」(参考資料9 :アンケート協力お願い文の案(令和5年4月4日実施の市長レク資料))と明記されていたものが、「『昇降技術』の設置について」と変更されていた。この変更は、令和5年4月4日の市長レクでの意見をもとに変更したとのことだったが、詳細は議論の記録が残っておらずわからないとのことだった。 ・『昇降技術』は、「大天守地階又は地上から可能な限り上層階まで昇降できる技術」として公募し提案を受けた中から選定されたものである。(参考資料10:公募要項抜すい(「2-1.募集する技術」)) ・『昇降技術』の公募は、令和2年4月3日衆議院国土交通委員会、5月12日参議院国土交通委員会における「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下「バリアフリー法」という。)の一部を改正する法律案に対する附帯決議」の趣旨を踏まえて行われたものであり、同附帯決議は、障害者権利条約に則り、歴史的建造物を再現 (復元を含む。)する場合等のバリアフリーの在り方を定めているものである。(参考資料10 :公募要項抜すい(1-3.基本方針」、図表2)) ・『昇降技術』の公募は、平成30年度から障害者団体や有識者会議へ説明し意見を聞きながら進め、同附帯決議の趣旨に従い、高齢者、障害者等の参画の下、検討を行ってきた。(参考資料3:名古屋城バリアフリーに関するこれまでの経緯) ・市長ヒアリングでは、市長は、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指すという認識であるが、『昇降技術』を設置する階は決まっておらず、その手段としては必ずしも公募で選定された『昇降技術』に限らず、車いすの技術進歩など他の技術を模索したいとの認、識であった。 ・市長が、昇降技術の設置そのものを撤回するような趣旨の発言を公式の場で行った事実は確認できなかった(参考資料11:名古屋城バリアフリーに関する市民討論会開催までの経緯)が、職員ヒアリングにおいて、所管副市長・職員に対しては、設置しないとの意向を一時的に示していたことがある、ということを確認した。 ・職員ヒアリングでは、令和4年度末頃までは市長は『昇降技術』を設置しない意向が強く、令和5年度に入った頃は、市長の意向が変化し、設置はするが1階までとなるだろうと感じていたとの一部職員の意見があった。 ・市長・所管副市長・職員へのヒアリングによって、『昇降技術』をどこまで設置するのかに関して、市長は1階まで(将来の上層階は他の技術等)、所管副市長は1階まで(将来的にはより上層階への設置を見込む)、職員は可能な限り上層階までと考えていたことが確認できた。 ・市長へのヒアリングでは、令和2年に文化庁が「史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準」を定めており、その中で歴史的建造物の「復元」が可能なのは名古屋城だけであり、高い蓋然性があって本物といえるようなものには、新築でも別個の価値が与えられるべき、そういう基準に従うことが我々の任務であるとの考えが示された。 ・市長へのヒアリングでは、討論会以前の段階では、1階までの設置となる「雰囲気」であり、「まあ1階だわなあ」と発言していたが、公募要件(可能な限り上層階をめざす)もあるので、2階以上は未確定との認識であった。 ・所管副市長・職員へのヒアリングによって、討論会直前の段階でも、所管副市長及び職員は、市長の考えは変わることはないだろうと考えており、1階までという市長の指示を受ける想定で方針決定の準備作業をあらかじめ進めていたことが確認された。(参考資料12 :名古屋城木造天守のバリアフリーの方針(令和5年5月30日実施の市長レク資料)) ・所管副市長・職員へのヒアリングによれば、所管副市長からの指示により、討論会の企画検討においては、市民意見の対立構造があり市の方針決定のための意見聴取を行う点で共通するとの認識で、令和5年5月13日開催の木曽川水系連絡導水路意見交換会(令和5年4月10日に公表)と整合するよう進めることとしていたとのことであった。 ・討論会当日の市民の質問や表明意見、終了後の感想記入用紙を見るかぎり、多くの参加者は『昇降技術』の設置が決定事項であるとは認識していなかったと考えられる。 ウ 評価 『昇降技術』については、「付加設備の方針」により、可能な限り上層階まで昇降できる技術として公募し選定したものである。そのため、改めて市民からの意見聴取を行う必要がないとも考えられるところ、市長は、付加設備の方針どおり、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指す認識ではあるものの、その手段として、他の技術を模 索していたものと思われる。付加設備の方針の解釈は行政主体において行うものであり、当検証委員会が行うものではないが、市民が付加設備の方針を見たうえで公募要項(参考資料10 :公募要項抜すい(「1-2目的」、「2-1募集する技術」))を見れば、公募によって選定された『昇降技術』は、可能な限り上層階まで設置するものと考えるのが通常であるが、『昇降技術』について改めて問われれば、『昇降技術』を設置しないこともあり得るということも含めて問われていると解釈する市民がいたとしてもやむを得ず、その意味において、正確な情報提供を行うということができていなかったと言える。 その上でさらに、可能性がない「設置しない」という選択肢をアンケート項目に置いたことで、『昇降技術』の設置が決まっていないのであれば、設置しないという判断を市長に求めるために議論が先鋭化することは十分に想像ができ、そのことが差別発言につながってしまった側面は否定できない。 『昇降技術』をどこまで設置するのかを市民に問うのであれば、「設置しない」という選択肢を置くべきではなく、どこまで設置するのか具体的な階数を示した選択肢を置くべきであったが、実際には、文化庁への提出スケジュールを優先するため、技術的にどこまで設置できるのかわからないまま市民に意見を聞くことになった点も、市民を誤認させた一因であると考える。その点では、アンケート協力お願い文に明記されていた意見聴取の目的として「どこまで設置するのか」という表現がアンケート送付までの検討段階で削除されていたことも同様である。こうした点については、市長レクを経た後に変更されているため、その変更理由を明らかにすべく具体的な指示や議論などを確認したところ、記録がなく詳細がわからないとのことであったが、変更前の案は所管副市長まで合意していたことからすると、検証委員会としては、市長の『昇降技術』を「設置しない」という当時の意向が、多少なりとも関係していたと判断する。 また、この『昇降技術』については、障害者団体等からの意見聴取を経るなど、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」の趣旨に沿って実施した公募で選定されたものであるとともに、エレベーター設置を希望する市民と焼失前の姿を希望する市民の対立する意見があった中で、その意見対立を解消するため、史実に忠実な復元とバリアフリーの両立を市が求めてきた結果であったが、こうした経緯等が市民に広く周知・認識されておらず、『昇降技術』が一般的なエレベーターと同一視されているような状況下で、アンケートに「設置しない」との選択肢があったことで、エレベーター設置に関する意見の対立が、本来、『昇降技術』をどこまで設置するのか意見聴取するための討論会にも持ち込まれ差別発言を生じる背景になったものと考えられる。 この『昇降技術』については、一般的なエレベーターとは異なり、木造天守内部の柱や梁などの主架構を変更せずに設置し、また、取り外すこともできることから、市としては史実に忠実な復元として整理(参考資料13 :焼失前の天守に対する木造復元天守の主な改変事項)されており、この点は、階段手すり、非常放送設備、照明設備の設置や畳敷きの設置階などと同様であるが、そうした説明が市民に対してほとんどされていないことから、結果として焼失前の姿との違いとして『昇降技術』のみが注目され、その利用頻度が高いと想定される障害者が特に矢面に立たされてしまった面も否めない。 差別発言の内容を見る限り、『昇降技術』がなければあたかも焼失前の姿と同一に復元されるものと認識されていることがうかがえるが、『昇降技術』の設置に反対の意見が多く届いた時点で、広く市民の意見を聞くことよりもまず先に、史実に基づく復元にあたり、柱や梁を取り除かずに設置できる技術であることの市民の理解・認識を広げるべきであって、そうした意見の対立の延長線上と受け止められないような配慮が行き届いた意見聴取とすべきであったと思われる。 また、討論会が、本来、『昇降技術』をどこまで設置するのかの意見聴取であれば、木曽川水系連絡導水路事業への参画か撤退かで対立する市民意見を聞くための意見交換会と同様の企画・運営にはなり得ないと考えられる。しかしながら、同時期に開催の木曽川水系連絡導水路事業意見交換会の企画・運営を確認していたことからすると、所管副市長や職員においても、意見聴取の目的として『昇降技術』を設置するかしないかの意見を問うものという認識が一時的にあり、その意識が、討論会の準備にも影響を与えたのではないかと考えられる。 なお、歴史的建造物の復元やバリアフリーに対する考えに関しては、討論会における差別事案に対する人権の観点からの検証対象外のため評価は行っていない。 (2)「討論会」の名称の不適切さ ア 問題点 討論会は、復元する名古屋城の木造天守において、公募により選定された『昇降技術』をどこまで設置するのかを市が最終的に判断するために企画されたものであり、意見聴取するのは、名古屋城のバリアフリー全般に関する内容ではなく、『昇降技術』に関する内容であって、その意味では、「バリアフリー」とする名称は、必ずしも適切なものではなかったと言える。 さらに重要なことは、意見聴取という趣旨からすれば、「意見交換会」等の名称により開催されることが適切であると考えられるところ、実際には、「討論会」の名称で実施している。これによって、意見が異なる市民同士で討論を行うことが予定されているような意味合いが含まれ、参加した市民の意識に影響を与え、対立意見の応酬となる素地を作ってしまい、その結果として、差別発言が発せられる契機となってしまったのではないかと考えられる。こうしたことから、「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」という名称が及ぼした影響について、検証を行うこととした。 イ 確認した事実 ・参加申込書の参加動機欄には、「討論内容に関心があるため」「…バリアフリー設置案に反対するため」といった記述がみられ、参加者が“討論”の場を意識していたことが推察できる。 ・参加申込書と同封のアンケート協力お願い文では、「希望者のみなさまを対象に市民討論会を行い、ご意見を直接お伺いしたいと考えております。」と明記していた。 ・企画当初、木曽川水系連絡導水路事業に関する会合の名称は未確定であったため、過去に行われた同種の会(平成21年8月2日開催の木曽川水系連絡導水路事業公開討論会)の名称を参考に、「討論会」にしたものと推察される。 ・ただし、木曽川水系連絡導水路事業に関する会合の名称は、最終的には「意見交換会」となった。 ・職員の多くは、討論を行わないのに「討論会」という名称であることに疑問をもっていたにもかかわらず変更するには至らなかった。その理由は、すでにアンケート協力お願い文などに「討論会」の名称を明記し、外部に周知していたためとのことだった。 ・アンケート項目では、「現在の園路等を含む名古屋城全体のバリアフリー」も聞いているが、職員は、討論会の目的は『昇降技術』についてと認識していた。 ・参加申込書と同封の資料やアンケートも『昇降技術』に関する内容であった。 ・討論会終了後の感想記入用紙(参考資料14:感想記入用紙の記載内容」を見る限り、エレベーターや『昇降技術』に関する内容と受け止めていた方が多いと思われるが、バリアフリー全般に関する意見を書いていた方もいた。 ウ 評価 討論会という名称で開催した以上、参加する市民が討論の場であると認識するのは自然なことであって、議論を“戦わせる”という意識に影響を与え、対立する意見の相手に強い主張を行う展開を招いたことが、差別発言が発せられる契機になったとの可能性は否定できない。 アンケートや討論会資料でも、『昇降技術』に関する内容が中心で他のバリアフリーに関する内容がほとんどなかったため、“バリアフリーに関する”市民討論会との名称は、内容と不一致であったと言える。討論会参加者は、無作為抽出により選ばれ、アンケートが送付された市民のみであり、前提として『昇降技術』に関する資料提供を受け、『昇降技術』に対する自己の考えを回答したうえで、直接、市に対して意見を述べることを希望した市民であることから、『昇降技術』に関する会合との認識でいた可能性は高いとも思われる。しかし、そもそも、市民にとっては、まずタイトルを見て興味を持ち、内容等を見て参加を判断すると思われることから、市が討論する場ではないと認識しながら「討論会」の名称で実施したことで、市民を誤認させたと言われてもやむを得ないものであり、本来、タイトルと内容が不一致であることは不適切と言える。 検証委員会としては、より上層階へ昇るための手段としてエレベーターを設置しない代わりに、史実に忠実な復元を公募の要件として選定した『昇降技術』を設置することへの市民理解があまりなされていない段階で、“バリアフリー”の名称を十分に検討することなく使ったことで、意見の対立が持ち込まれる要因の1つとなったと判断する。 意見の対立が背景にあるテーマを扱う以上、名称について市民がどう受け止めるのか、市民への影響という視点を欠いてはならないと考える。名称は、一旦外部に公表した後だとしても修正できないものではなく、事業内容に即した名称へと変更されなかったことは、討論会に対する事業の意義などの点で意識が薄かったと言わざるを得ない。 2 事前の準備 (1)毎年実施してきた市民向け説明会とは異なる特殊性 ア 問題点 今回の討論会は、無作為抽出の市民5000人にアンケートを送付し、その中から参加申込のあった方を対象に行い、市民の考えを直接聞くというものであった。平成30年1月以降、毎年実施している名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会(以下「市民向け説明会」という。)とは異なる試みとして実施する以上、参加者の考え方の傾向や発言内容なども異なることが考えられるにもかかわらず、これまで問題が発生しなかったから、今回も発生しないだろうという従来と同じような意識で事前準備をしていたのではないか。そうした差別発言の発生を想定できなかった背景について検証した。 イ 確認した事実 ・無作為抽出によりアンケートを送付し、その中から参加者を決定する方法は、市では、あまり、実施してない特殊な方法であった。 ・毎年実施している市民向け説明会は、希望者による自由参加であり、今回の討論会とは参加者の傾向が異なる。 ・委託業者は、市の事業において、平成25年度に無作為抽出でアンケートを送付し市民ミーティングを実施した経験があった。(参考資料15:名古屋城木造復元 昇降技術に関する市民意見の聴取 企画書」(参考)過去の事例)(令和5年3月15日実施の所管副市長レク資料)、参考資料16:みちまちミーティングの開催) ・市民向け説明会は、市が事業内容等を説明し、それに対して市民から市が質問を受ける形式であって、意見聴取という方式では実施したことがなく、準備段階から委託業者に依存する状況であった。 ・市民向け説明会と同様の意識で準備を行っており、市民意見の対立によるトラブルを想定していなかった。 ・令和5年1月に実施した市民向け説明会において、質疑応答の際に、特定の意見による一方的な雰囲気になっていなかったことから、今回もそのような雰囲気にはならないと考えていた。 ウ 評価 名古屋城総合事務所にとっては、市民から意見聴取をする方式の運営は未経験であったが、市民向け説明会等の運営で実績のある委託業者への信頼感から、基本的には、委託業者からの提案を受けて市が確認し、修正をするという流れを繰り返す形で企画が進められてきた。しかし、特に、これまで実施していない運営方法であったのであれば、トラブル対応等も含めて、これまで以上に事前準備等で注意する必要があり、市民が自由に発言する場としてあらゆる可能性を想定した確認・準備を委託業者とともにすべきであったと考えるが、不十分であった。 この点について、スケジュール設定として後述するが、職員は、討論会事業に対するスケジュールの厳しさや業務への負担感を非常に強く感じており、事前準備において、さまざまな想定ができない状態に陥っていたものと考えられる。こうしたことから、委託業者を頼る中で、責任の所在が不明確となり、場のコントロール・進行のチェックに甘さや油断が生じていた面は否定できないものと思われる。 (2)問題発生の想定の甘さ ア 問題点 討論会では、過去からの意見対立が背景にあることからすれば、市民同士で対立する意見が表明される可能性は十分に予見できたはずであり、問題が生じないよう十分な事前準備をしていたのであれば防ぐことができたかもしれず、仮に問題が生じたとしても、より適切な事後対応ができたとも考えられる。実際に、討論会参加申込書(参考資料17)には、「参加動機」の記入を求めており、その記載内容を精査し、参加者の強い主張や考え方を関係者間で共有できていれば、討論会の進行上の対策を検討することもできたと考えられる。 また、討論会は、市民の意見聴取としてアンケートで聞いたうえで、再度、市民の生の声を市長に聞いてもらう目的でもあったとのことであるが、市民が市長に生の声や思いを聞いてもらうため強く訴えることも十分想定されることから、そうした点について、検証した。 イ 確認した事実 ・対立する強い意見は想定していたものの、市民向け説明会での経験上、厳しい意見は市に対して行われるものと考えており、実際に市に対して厳しい意見をこれまで何度も受けた経験を重ねていることから職員は十分対応できると認識していたが、市民同士で言い合うことは、想定していなかった。 ・過去の市民向け説明会では、市長の木造復元に対する考えに対して厳しい反対意見が出されることも多く見られていた。 ・参加申込書の「参加動機」欄の記述(参考資料18:市民討論会参加申込書の項目(抜すい))の中には、「障害者に配慮する、その考え方に疑問を持ったから。・・・(中略)・・・障害者が権利を主張するのでしょう。そもそも木造の天守は現在の建確(建築基準法第6条1項)に当てはめられない建物のはず。名古屋市がどちらにしたいかはっきりしないからこういう事になる。」というような一定のリスク発生を想起しうる記述もあった。(56名の参加申込者のうち参加者は36名のため当該意見提出者が参加したかどうかは不明) ・職員は、参加動機欄にひと通り目は通してはいたが、特別な意識や情報共有をすることなく、参加申込書の他の欄(主催者に配慮してほしいこと)の方に注意が向いていた。 ・アンケートで意見をいただいた方の参加による、討論会を開催して改めて意見を聞く目的としては、直接、市長に市民の生の意見を聞いてもらうことであった。 ウ 評価 討論会という名称である以上、市民が議論を戦わせる可能性は十分予見できたと考えられるし、市長が参加することにより、市長の意向に賛成の人も反対の人も市長に自己の主張を積極的にアピールしようといった意識が働き、議論が先鋭化する結果、感情的な発言等が出てくる可能性は十分に想定できたと思われる。 特に、意見の対立が背景にあるテーマのため、事前に参加者から提出された意見があったのであれば、可能な限り目を通し、必要な対応を想定すべきであったし、さらに、参加動機の記載内容を精査し関係者間で共有できていたならば、討論会の実施にあたっての人権上のリスク対策の検討や準備ができた可能性があったと考えられる。 しかし、そこに至らなかったのは、討論会に関する主体的なリスク管理の中で、人権の面での意識が低かったのではないかとの疑念を抱かざるを得ない。その結果として、討論会の進行上の対策を検討することもなく、差別発言が発生した際や差別発言後に適切な対応ができないことにつながったことは否定できないと考える。 (3)スケジュール設定の無理 ア 問題点 討論会の準備は、令和4年度から令和5年度にまたがる期間に準備が本格化している。この時期は、人事異動により新旧担当者間で業務の引継ぎが行われるとともに、令和5年4月9日に執行された名古屋市会議員の改選に伴う対応など、相当厳しい時間的制約の中で行われたことが予想される。このような事情も一つの要因として十分な検討がなされないまま討論会の準備が進められていったのではないかとの疑問が生じる。 また、討論会の開催時期は、例年8月に開催される文化庁の復元検討委員会に間に合うようなスケジュールとして設定したようであるが、討論会開催のための準備期間として十分であったのか。一旦、文化庁への申請に合わせたスケジュールが定められた以上、名古屋城総合事務所からすれば、無理を押しても、そのスケジュールに合わせようとするものと考えられる。 その結果、討論会の実施そのものが目的化したことや職員への負担が過大にかかって作業的に準備を進めるだけになったことで、前述の特殊性を踏まえた検討作業を十分にできなかったものと推察されるため、こうした点について検証を行うこととした。 イ 確認した事実 ・所管副市長からの「設置しない」又は「1階まで」で整備基本計画をまとめる指示を受け、名古屋城総合事務所はリスク評価を行い、令和5年2月7日の所管副市長レクで「大天守1階までのバリアフリー案」「市民対話を通じバリアフリー案を策定」「大天守最上階までのバリアフリー案」の3案を確認した。(参考資料19:特別史跡名古屋城跡木造天守整備基本計画に取りまとめるバリアフリーの方針について(令和5年2月7日実施の所管副市長レク資料)) ・名古屋城総合事務所としては、リスク評価として、「市民対話を通じバリアフリー案を策定」する場合については、「令和5年度に基本計画を提出できない」と考え、方針決定には約2年かかる見込みとしていた。 ・令和5年3月上旬、名古屋城総合事務所は討論会の開催時期を7月下旬に設定(参考資料20:名古屋城木造復元 昇降技術に関する市民意見の聴取 企画書」(令和5年3月10日実施の局長レク資料)のスケジュール部分抜すい)したが、所管副市長の指示により、文化庁の復元検討委員会が例年開催される8月を目標に逆算して5月下旬に前倒すこととなった。(最終的に6月3日となった。) ・名古屋城総合事務所からは、スケジュールが厳しいとの認識を局長や所管副市長に示していた。 ・観光文化交流局内の検討では、本討論会の特殊性を十分に認識することなく、市民向け説明会の経験を根拠に、8月の文化庁の復元検討委員会に間に合わせることを前提として、具体的スケジュールを落とし込んで進めることとした。 ・討論会の実務担当職員へのヒアリングから、「やり切る自信がない」「無理だ。難しい。」「大変だ」などの言葉を発しつつ、「やるしかない」「とにかく時間がない」「早くやれ」という状況のなかでこの事業に取り組んでいたことがうかがえた。 ・昇降技術担当主幹の時間外労働は、4月に62.25時間、5月に81.5時間であった。 ・討論会を担当する職員が所属している名古屋城総合事務所保存整備室の他の課長級職員4名には、時間外労働はほとんどなかった。 ・係長級以下の担当職員3名の時間外労働は、4月に18時間、5月に13時間の者が1名、4月に52時間、5月に45時間の者が1名、4月に17時間、5月に2時間の者が1名であった。 ウ 評価 所管副市長・局長としては、市民向け説明会での経験から、討論会開催までの準備期間はスケジュール的に十分であると判断しているが、無作為抽出のアンケートに選ばれた市民から参加者を募る本件討論会の特殊性への考慮がされていたとは言い難い。文化庁への申請に合わせたスケジュールが優先された結果、討論会の実施そのものが目的化し作業的に準備を進めることになり、前述の特殊性を踏まえた検討作業や『昇降技術』に対する正確な情報が市民に提供されていない状況で討論会が開催されることになったものと判断する。 また、時間外労働が増加する中で、簡素な意見聴取方法への変更、あるいは、部分的にでも組織内での職員の応援・協力体制をとることも検討できたものと思われる。そして現実に、意見対立から発生する問題を想定した検討や準備を行うことができていなかった事実からすると、2か月のスケジュール短縮がなければ、その分、慎重な運営上のリスク想定などができ、進行面での対策を充実させることができた可能性もあったと考えられる。 名古屋城総合事務所の職員は、令和5年3月10日の企画から討論会開催までの間に、市長・所管副市長・局長へのレクが計31回行われ、繰り返し企画の修正・再提案を行う必要があった。年度をまたぐ企画検討のため、局長や主担当者の人事異動による職員体制の変更による各職員への負担の重さは想像に難くない。検証委員会としては、名古屋城のバリアフリーに関しては、意見の対立が存在する事項であり、4月の人事異動で職員の入れ替わりがあったものの、その背景事情や『昇降技術』の設置に向けて進めてきた経緯を関係者が十分に理解したうえで、様々な意見が出されることを想定することが求められるにも関わらず、入念に準備する余裕がなかったことが、参加市民への配慮やさまざまな想定に至れなかった要因の1つであると判断する。 (4)委託業者との連携体制の不十分さ ア 問題点 討論会は、市において立案されているが、討論会での意見聴取の前提となるアンケートの作成や司会進行など会の運営は委託して進められていることから、委託業者との間で、討論会の目的や、参加者の参加動機の共有、意見対立による問題が生じた場合の対応策を含めた当日の進行等、十分な連携がなされたかについて、検証した。 イ 確認した事実 ・職員ヒアリングでは、市民向け説明会を運営してきた委託業者への信頼がうかがえた。 ・市と委託業者の担当者は、週一回程度、直接会って打合せを行っていた。4月11日(アンケート最終確認、討論会作業イメージ、今後のスケジュール)、4月27日(説明資料、シナリオ等)、5月10日(市民討論会参加者宛案内、タイムスケジュール、進行シナリオ、説明資料等)、5月16日(アンケート集計速報、進行シナリオ、説明資料、ZOOMテスト等)、5月24日(説明資料、当日配布資料、YouTubeライブ配信等)、5月29日(質問シート、YouTubeライブ配信テスト等) ・市は、市民向け説明会と同じような意識で検討・打合せを行っており、参加者決定方法の違いにより参加者の傾向が異なることや、市民から意見を聞く形式という点で、これまでとは異なる運営や想定が求められるところ、新たに必要となる対応については十分な打合せや検討は行われていなかった。 ・討論会の目的に関連して、『昇降技術』の設置自体が決定していることについては、打合せする中で委託業者も理解しているだろうとの認識があり、市から委託業者へ明確には伝えていなかった。 ・委託業者は、『昇降技術』の設置は決定しているという認識はなかった。 ・委託業者は、討論会の目的を「参加した市民が、木造復元事業・『昇降技術』等について詳細な説明を受けたうえで『昇降技術』の設置の是非について議論を行い、理解を深めていく」ことと認識していたが、市はそのように認識していなかった。さらに、職員間においても、「市民アンケートの結果を公表し、アンケートに表れない生の声を聴く」「市長に市民の意見を聴いてもらい、『昇降技術』の設置についての判断材料としてもらう」など、討論会の目的についての認識が完全に一致しているとは言えない状態であった。 ・無作為抽出によるアンケートで参加者を募って討論会を実施する方法は、市側に経験がないため、基本的に、委託業者の提案を受けながら進めていた。 ・討論会での市民の発言について、委託業者からは、「司会が質問票を読み上げ、書いた人をあてて補足をしてもらう。」形式で提案していたが、市側から挙手制とするよう指示をしていた。 ・「市民から様々な意見が出る可能性は織り込み済み」と市から委託業者へ連絡していたことから、市も委託業者も一定のリスクを感じていた。 ・討論会の冒頭で、司会から参加者に「質問・意見用紙」の記入を依頼し、休憩中に回収して討論会の後半で一部を紹介することは参加者に伝えていたが、記入された内容を紹介する際、記入者へ補足説明を求めることは説明しておらず、質問・意見を紹介していく進行の中で、参加者に発言をその都度求めて発言してもらっていた。 ・委託業者は、市の事業において、平成25年度に無作為抽出で市民へアンケートを送付し、市民ミーティングを実施した経験があった。 ・委託業者が提案した当初の企画段階では、「市民ミーティング」として、ワークショップ形式で市民が意見を出し合い相互理解を深め結論を出していく方法であったが、最終的には、市が意見を聞くという形式になった。(参考資料15:名古屋城木造復元 昇降技術に関する市民意見の聴取 企画書」((参考)過去の事例)(令和5年3月15日実施の所管副市長レク資料)、参考資料16:みちまちミーティングの実施) ウ 評価 市と委託業者においては、運営上で予定されている事項の検討が中心となり、いわゆる想定外の事態についての考えまで及んでいなかったが、本事案のような過去からの意見対立があり人権上の配慮が必要な事案では、特に、主催者である市が責任を持って必要なリスク管理や対応の指示をすべきであった。 市民の発言については、当初、意見・質問用紙に書かれた中から委託業者が意見質問の内容を確認・選択して指名する方式が提案されていたが、市からの指示により参加者の挙手による自由発言を許可する方式へと変更していた。しかし、当日には、意見質問用紙に書かれた中から委託業者が指名し、記入した参加者に補足説明を求める方式に変更されるなど、事業に係る関係者間の意思疎通の不十分さもうかがわれた。その結果、仮に匿名と思って意見・質問用紙に記入していた参加者がいた場合には、突如、補足説明を求められれば会場で記入者として判明してしまうことになるなど、配慮に欠ける運営となっていた。 委託業者の企画当初のイメージとは異なる形式となったため、より綿密な打ち合わせや意識のすり合わせが必要であったが、それが十分にできていなかった。具体的には、アンケートで一度意見を聞いているにもかかわらず、改めて討論会の場で意見をいただく趣旨について、委託業者と市、また職員の中でもずれが生じており、また、委託業者が長年にわたり木造復元事業に携わってきたことへの信頼から、市側が討論会の目的を明示的に委託業者との間で確認していなかったことが、各検討での詰めや運営の方向性、各種判断に影響を与えたと考えられる。 そして、意見の対立が背景にあるテーマであったにもかかわらず、委託業者においては、差別発言は別として、討論会の中で市民同士が意見を言い合うことについて大きな違和感はなく、市としても直接自由な意見を発言してもらうことに気がまわっており、これらのことは、さまざまな想定ができなかった背景にもなっていたと考えざるを得ない。 (5)人権侵害のリスクの想定不足 ア 問題点 市には、差別事案が発生した際の対応マニュアルがあるものの、討論会では差別発言が発生した際や討論会終了時まで適切な対応ができていなかった。討論会でのテーマからすると、同マニュアルをもとに準備段階から障害者への差別事象を想定した予防的な対応の検討をしておくことで、発生した差別発言に対して適切な対応につなげることができたのではないかとも考えられる。 また、YouTubeでライブ配信を行っていたが、ライブ配信する以上は、ことさら、不測の事態に備え、十分な検討と準備が不可欠である。なぜなら、不測の事態が発生した場合、その情報がインターネットにより世界発信されることで、さらなる人権侵害の拡大につながるおそれがあるためである。そうした人権に対する強い意識があれば、討論会の運営進行全般にわたって注意を払うことができたのではないかとも考えられるため、 こうした点についても検証した。 イ 確認した事実 ・差別事象マニュアルに対する関係職員の認識が薄かった。 ・差別事象マニュアルの内容は、とっさの際に使えるような実践的なものではなかった。 ・YouTubeでのライブ配信は、1か月前になって市から委託業者に依頼した。 ・市民向け説明会では録画配信を行っていた。 ・個人が特定されないようにといったプライバシーの配慮については市と委託業者で打合せ等されていたが、不測の事態は想定していなかった。 ウ 評価 差別事象マニュアルの存在は認知されていても、その内容についての周知が不徹底であったことは、差別があらゆる場面で行われる可能性があることからすると、関係職員の人権意識の点で非常に大きな問題と考えられる。一方で、存在は認知していても内容がよく知られていないということは、問題意識があったとしても、その内容が関係職員に現実的に役に立つものとして受け止められていないという一面もあったと思われる。 マニュアルの内容については、ある程度の汎用性は必要だとしても、実際の現場で、いざ職員が問題を目の前にした際に判断して使える内容である必要がある。差別発言が、意図的に行われたのか一時的な感情で行われたのか、周囲に多くの人がいるのかどうか、どういう場面で差別が発生しやすいのかなど、さまざまな現場で応用できる内容のマニュアルが作成・周知徹底され、十分に認識されていれば、差別発言が誘発されないような討論会の進行や、差別発言が起こった事後に何らかの対応ができたものと考えられる。 また、YouTubeのライブ配信は、企画当初には予定されていなかったが、市に依頼された以上、委託業者からすれば、ライブ配信の実施を検討せざるを得ないが、実施に伴うリスク管理を含む責任の多くは、市にあるものと認められるにもかかわらず、情報が世界発信されることによる影響について、市側が意識していなかったことは、討論会全体にわたって人権問題に対する意識が低かったことの一つの表れと考えざるを得ない。 3 当日の運営の実施・責任体制 (1) 運営・進行に関する認識と意識の共有不足 ア 問題点 討論会の目的が、本来、『昇降技術』をどこまで設置するのかについての意見聴取であれば、市民の発言は、1階や5階など、設置する階についての意見であるはずなのに、実際には、市民からは『昇降技術』の設置やバリアフリー整備の方針そのものについての意見が中心であった。こうしたことから、討論会の目的が市民に理解されていないまま運営・進行がされていたのではないかとの疑念が生じる。 設置しないことを求める意見について、仮に意見は意見として承るとしても、その際、市として設置は決定していることを丁寧に説明していれば、差別発言が起こらなかった、あるいは繰り返されなかった可能性があったと思われるが、結果としてそうした説明をしなかったことで、事実上、討論会が意見の対立を受け入れているような場となったと考えられる。そこで、討論会の目的を市民に十分に理解していただくような適切な運営・進行が行われていたかについて、検証を行った。 イ 確認した事実 ・討論会の中で「エレベーターの設置は決定しているのですか」という市民の質問に対して、「市民の皆様からのご意見をまずはお伺いしたい・・・エレベーターの設置については、そこからまたご意見を聞いて考えてまいりたい」(主幹)と回答していた。(参考資料21:市民討論会会議録(17頁抜すい)) ・討論会の中で「本討論会で意見対立しているのでしょうか、この問題設定がよくわかりません」という市民の質問に対して、「最終的にこれからどういうふうに『昇降技術』を活かしていくのか、活かさないのか、そういったことについての我々としてしっかり市民の皆様のご意見を参考にさせていただきたい」(所長)と回答していた。(参考資料22:市民討論会会議録(20頁抜すい)) ・討論会の中で「外付けのエレベーターは計画していませんか」という市民の質問に対して、過去からの検討結果として外付けのエレベーターは付けないこととした経緯を説明したのち、『昇降技術』について「ご意見をいただきながら、しっかり考えさせていただきたい」(主幹)と回答していた。(参考資料23:市民討論会会議録(23頁、24項抜すい)) ・討論会の中で「今日の会議がこのまま終わると・・・・ユニバーサルデザインとかそういう話じゃないんですよ。エレベーターを付けるか付けないかって話をしてるんです」という市民の意見に対して、討論会の目的として、公募で選定された『昇降技術』の設置を前提として、どこまで設置するのかの意見聴取であることを説明していない。 ・討論会での市民の意見としては、エレベーターあるいは『昇降技術』について、設置するか、設置しないかの議論となっており、設置を前提にどの階まで設置するかの視点での意見はなく、市からの回答にもそうした補足説明はなかった。 ・討論会での意見やアンケート等をみると、『昇降技術』が、史実に忠実に復元するためエレベーターを設置しない方針のもとで公募により選定された新技術であることが、市民には十分に理解されていなかったと思われる。 ・シナリオ上には、討論会の発言について「昇降機は付けない派、1階までバリアフリーにする派、5階まで付ける派のバランスを見てみる」となっていた。 ・討論会で読み上げた「質問・意見用紙」はどのような観点で選んでいたのか確認したところ、「『昇降技術』の設置について賛成の意見、反対の意見のどちらかに偏らないよう配慮いただくよう委託業者とは打ち合わせを行っていた」とのことであった。 ウ 評価 討論会当日の発言や質問・意見用紙、討論会終了後の感想記入用紙を見るかぎり、多くの参加者は『昇降技術』が公募によって選定され設置が決定しているものであることを認識していなかったと考えられる。前述のとおり、アンケート協力お願い文、アンケートの選択肢や討論会当日の職員説明においても、市民にとっては、昇降技術を設置しないことも含めて意見聴取する討論会であると受け止められる内容であったことで、意見の対立が再燃する余地を生み、そこから対立意見を強く表明する中で差別発言につながってしまった面も否めないと考える。 この点については、外付けエレベーターを求める市民の意見に対し、市は、方針として外付けエレベーターを設置しないとの説明を行ったが、一方で、バリアフリーを不要と求める市民の意見に対して、市は、方針として『昇降技術』の設置は決定していると説明をしなかったことは、公平性の点で疑問がある。また、市の方針に反対の市民も当然いるので、市民の忌憚のない意見を聞くという趣旨で、意見聴取の目的に合わない意見であってもそのまま受け止めるという運営も考えられるが、今回は、対立する意見の一方には否定する説明をし、他方はそのまま聞く対応をしており、やはり公平性の点で疑問がある。こうした姿勢が、バリアフリーを求める市民意見を否定しやすくする雰囲気にもつながった面も否めない。 その他、市民からの質問や意見を受けた後で、討論会の目的について的確に説明できる場面はたびたびあったと考えられるが、それをしなかったことも、差別発言につながる一因となったと考えられる。 そもそも、公募で選定された『昇降技術』については、エレベーターを希望する市民と焼失前の姿を希望する市民の対立する意見がある中で、史実に忠実な復元とバリアフリーの両立を市が求め障害者団体への意見聴取など時間をかけて検討し進めてきた結果であるが、その経緯等が市民に理解されていないまま議論が進められていたものと思われる。 意見聴取のきっかけは、昇降技術の設置に賛成・反対という論点から始まっていたが、意見聴取の本来の目的は、『昇降技術』の設置を前提にどの階まで設置するかという論点であり、そのずれが、討論会の企画運営に影響(アンケート協力お願い文に記載の討論会の目的に関する記述、アンケート選択肢、討論会での職員説明など)して、参加者に討論会の趣旨を誤認させ、引いては差別事案の発生につながったという面もあると考える。 また、昇降技術をどこまで設置するのかをバランスよく聞くのであれば「1階まで」か「5階まで」のいずれかを聞くことになるはずである。討論会の目的外の意見も含めて自由に聞く趣旨であったとしても、『昇降技術』を設置しないこと、と、外付けのエレベーターを設置することの両意見に対して異なる対応をしたことは、付加設備の方針でエレベーターを設置しないことの代替として新技術の開発を定めている点からも、バランスを欠くものである。 その他、「『昇降技術』の設置について賛成の意見、反対の意見のどちらかに偏らないよう配慮いただくよう委託業者とは打ち合わせを行っていた」とのことであり、1階と5階など設置階に偏りがでないような打ち合わせとなっていなかったことから、事実上、設置に賛成か反対かの意見を聞く運営となっていたと考えられる。 なお、討論会において、事実上、『昇降技術』を設置しない意見を聞く運営がされていたが、市長レクで市民あてのアンケート等に「設置しない」可能性もあるような表現に修正されていた事実からすると、検証委員会としては、市長の『昇降技術』を「設置しない」という当時の意向が職員の意識に何らか影響し、少なからず、こうした運営にも反映されたと判断する。 (2)差別発言への対応 ア 問題点 差別発言を含んだ市民からの意見に対して会場から一部拍手が起きた。一般的に拍手は、意見に賛同の意を示す場合に行われるものであるが、単にエレベーター不要という点に対して賛同されたものなのか、差別発言も含めた意見全体に賛同されたものなのかは判然としないところであるが、差別発言を受けた方からすれば、障害者であることを明示された上で差別発言を受けたわけであるから、会場全体から責められる感じを受けることは、もっともなことである。そして、この拍手により、会場が差別的な発言を容認する雰囲気になっていたのではないかと感じられる。一層、市としては、差別は許されないという立場を明確にし、市民の人権を守るスタンスを示すことが当然に求められたはずである。こうしたことから、市が差別発言をなぜ止められなかったのか、拍手が あった後や差別発言後、あるいは会終了時に何らか注意喚起やおわび等のアナウンスができなかったのか、それらの原因について、検証を行った。 イ 確認した事実 ・相手をおとしめる発言や差別発言を含む意見に拍手が起きた後も、そのまま運営が続行され、会は終了した。 ・最初に差別発言をした方(市民F)の発言時、市民Eとの言い合いになって、職員が止めに入って一旦おさまった。 ・2名の参加者(市民F、市民G)が差別発言を行ったが、その直後、最終発言となった参加者(市民H)が対立意見をまとめた意見(参考資料24:市民討論会会議録(27頁抜すい))を述べられたことにより場がおさまって安心したとの認識もあった。 ・差別発言をした方の発言には、「河村市長が造りたいと言ってるのは、エレベーターも電気もない時代に造られたものを再構築するって話なんです」「家康が造ったそのものを作る。(中略)エレベーターは必要ない」という、市長を明示した発言や日頃の市長発言を意識した表現も見られた。 ・いわゆる差別用語については、これまで一度も聞いたことがないため知らなかった職員が複数いた。 ・委託業者は当日の運営・進行全般の役割を果たすことに注力しており、討論会当日の差別発言があまり聞こえておらず、翌日の報道で詳細を知ったとのことであった。 ・司会(委託業者)は、差別発言であると認識ができなかった。また、市民が思いを持って参加し発言しているのを、主催者の市ではなく司会者の権限で止めてよいのか戸惑いがあった。 ・討論会終了後に参加者が会場から退室する際、職員は、差別発言を受けた方に対して誰も声掛けをしていなかった。 ・市長や職員・委託業者の誰もが、本件討論会の意義として、無作為抽出によって普段、意見表明をされない市民が参加し自由に発言するということに非常に高い価値を認めていた。 ・参加希望者が定員100名に満たなかったため、広く市民の意見を求めるのであれば追加募集も検討されたが、無作為抽出の参加者であることの有意性を優先し追加募集は行わなかった。 ・市民向け説明会では、賛成・反対の両極端の参加者ばかりであったため、市長・所管副市長・職員は、偏りのない意見を持つ市民の参加を期待していた。 ・名古屋城木造復元天守におけるバリアフリーの検討に関しては、これまで健康福祉局とも連携し、障害者団体等へ説明し意見を聞きながら進められてきた(参考資料3:名古屋城バリアフリーに関するこれまでの経緯)が、令和4年12月の障害者団体連絡会での名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募の結果等の説明以降、名古屋城総合事務所と健康福祉局との連携や情報共有ができていなかった。そのような中、討論会には、障害者差別解消の担当職員が出席していたが、名古屋城総合事務所が要請したわけではなく、傍聴者として自主的に参加していた。 ウ 評価 差別発言を含む意見に対する拍手について、市からのアナウンスも特になかったことから、参加者としては、意見の対立が意識され、差別発言も含めた意見全体として賛同が一定数あると感じ、会場が差別的な発言を容認するような雰囲気となってしまっていた可能性がある。主催者としては、参加するすべての市民が相互に尊重し合い、安心して議論することができるように参加者の協力を求めるアナウンスを行い、主催者の意思を明確に届ける必要があったと考える。 司会進行は、差別発言などの会の進行が脅かされる事態が発生した場合でも適切な対応を行う必要がある。しかし、会の運営に対する責任は主催者である市であるにもかかわらず、事前に市が差別発言発生の可能性について認識し、委託業者へ適切な対応を指示していなかったことは、会の円滑な運営に対する市の認識不足であったと考えられる。 職員が適切に動けなかった理由として、ヒアリング結果からは、差別発言などがあった場合の事前の想定、シミュレーションができておらず、身体が動かなかったということがあげられているが、市民が言い合いをしているところに職員が止めに入って一旦その言い合いがおさまったことや、2人の差別発言の直後に発言した市民が、対立意見をまとめるような意見を述べたことで討論が終了し、安心したといった意見があったことからすると、多くの意識が討論会を無難に終えることに向いていたものと判断する。差別発言を受けた方へ討論会終了後にも駆け寄ることができておらず、また、その場でおさまっても、差別発言を受けた方や参加者、視聴者にとって差別発言があった事実は残ったままであり、職員として差別発言に対する問題意識が欠如していたと言わざるを得ない。 また、参加者間での言い合いが不適切であるとの認識はあったが、その中に差別発言が含まれていたという認識が、当日の職員にどの程度あったのか、討論会終了後に差別発言を受けた方へ駆け寄ることもなかったという事実からも疑問が残る。本来、主催者である市が差別を容認していないことを、速やかに市の姿勢として毅然と示すことが必要であったはずである。 なお、無作為抽出で選ばれた市民に自由に発言いただくことについて市長が非常に重き価値を置いた発言を検討段階からしており、職員も委託業者も同様の認識でいた。そうした市長や職員が非常に重視する市民の自由な発言であったことから、制止や注意することに対して躊躇した面もあったものと判断する。討論会の司会進行を担当していた委託業者は、市民の自由な発言に意義がある会ということで、市民の発言を制止・注意することに躊躇する場合には、ただちに市に相談すべきであったとも思われるが、タイムスケジュールの中で討論会終了までの運営を考えながら、同時並行で対応策を考えるのは難しい面もあるため、想定外の事案発生については、やはり会全体を監理する職員が直接対応し、あるいは、委託業者に指示すべきであったと考えられる。 さらに、市民が自由な発言をしやすい環境を整えることは重要であると考えるが、自由な発言を求めることと発言を制止することは相反するため、自由な発言を促す場合であっても、差別発言防止のために事前のアナウンスをすることは可能であり、表現の自由も、すべての市民が等しく基本的人権を有するかけがえのない個人として尊重されることが前提であることを認識する必要があると考える。 調査を進める中で、差別用語については、ある意味、障害者理解が進み日常生活で見聞きする機会がなくなり、若い職員ほど知らないという状況も確認できた。そうした知識がないことも差別防止ができない一因となりうるので、差別用語に対する職員の知識・理解を深めることも必要と考えられる。 最後に、名古屋城木造復元天守におけるバリアフリーに関する検討にあたっては、以前から障害当事者からの意見と、それに対する差別的言動を含む意見による激しい対立があることがわかっており、「障害者対市民」という市民を分断するような問題になることが懸念される。市民への障害理解を進めるためにも、健康福祉局がより積極的に関わることが今後の差別事案防止・障害理解の点でも有用であると考える。また、名古屋城総合事務所は主催者として出席要請はしていなかったが、従前のように、健康福祉局と連携して取り組むことが有用であり、当日、障害者差別解消の担当職員が同席していたことから、討論会終了時や直後の対応など、相談することも可能ではなかったかと考える。 (3) 差別発言に対する市長のコメント ア 問題点 市が主催する討論会で差別発言があり、注意喚起を何らすることなく終了してしまったことは、市が差別発言を問題視していないと受け取られかねないものであり、さらには、閉会に当たって、市長が「熱いトークもあってよかった」と発言したことは、討論会で発生した差別発言を問題ないものと捉えていると考えられても仕方のないことであり、市長の認識と発言の真意について、検証した。 イ 確認した事実 ・市民向け説明会では、毎回、特定の意見を持つ方が参加し、毎回同じような発言をしていたことから、今回、無作為抽出で選ばれた市民が自由に発言する運営方法に市長は強い期待を持っていた。 ・参加申込書の記入(参考資料18:「市民討論会参加申込書の項目(抜すい)」)によると、ほとんどの参加者が市民参加型の会議への参加は今回がはじめてであった。 ・市長の国会議員時代の経験上、自由参加の市民集会では、特定のグループが参加し「やらせ」がありうるものと認識していた。 ・市長は、差別発言が出たのは想定外だったが、無作為抽出で参加した市民が自由に発言することを大きく評価していた。 ・市長は、差別発言はいけないが、それよりも、無作為抽出で参加した方が発言したということがよかったという思いが強かった。 ・市長は、討論会後、会議の冒頭で、自由な発言であっても相手を尊重すべきなど注意喚起をすべきであったと考えるようになったものの、市民の自由な発言を尊重することに対しては引き続き強い思いがあった。 ウ 評価 無作為抽出での参加者決定方法や参加者が自由に発言することについて、市長が高く評価すること自体は市長の政治スタンスにも関わることであり、当検証委員会が判断すべきことではないが、いずれにせよ、差別は人権侵害であって、いかなる場合でも許されるものではなく、差別を表現する自由というものは認められない。仮に当日の発言全体が正確に聞き取れていなかったとしても、記者会見等で、差別は許されないという市としての立場を明確に強く表明すべきであったと考えられる。 また、職員においても、差別発言が聞こえていたのであれば、仮にその場で動けなかったとしても、会の終了までに何らかの手段で市長に進言すべきであったが、その意識がなかったものと思われる。 市長の閉会あいさつを聞いている市民としては、市長が、差別発言を不適切と指摘していないことから、すべての発言を「よかった」と指していると認識した可能性もあるだけでなく、むしろ「熱い」という表現からは、過激で強い口調だった差別を含んだ発言を評価したとさえ捉えられかねないため、後日であっても、差別発言に対して積極的に問題提起すべきであった。 市長の立場として、市民の自由な発言を尊重することそのものは理解できるが、公職者として、差別には、より厳しい姿勢で対応に取り組んでいただきたい。 4 市が差別事案に対して適切な対応ができなかった背景・遠因等 (1)史実に忠実な復元の解釈等の不一致 ア 問題点 市は、「文化庁復元WG取りまとめ」(参考資料25)を踏まえ策定された文化庁復元基準(参考資料26)に示されている「復元」の解釈をもとに、市民向け説明会をはじめ様々な場面で、「史実に忠実な復元」という表現を使用して木造復元天守の説明をしている。他方、同基準には、バリアフリー整備に関する記述がないため、市は木造復元天守へのバリアフリー整備について有識者の意見を聞きながら検討を進めてきたとのことである。 当検証委員会は、「史実に忠実な復元」に基づく名古屋城木造天守の復元という施策の可否について検証するものではないが、上記の状況のもと、市長、所管副市長、職員の間で「史実に忠実な復元」の解釈に相違があるまま事業が進められたところに本件事案につながる遠因等はないか、検証した。 イ 確認した事実 ・「文化庁復元WG取りまとめ」に、「『復元』は、往時の歴史的建造物に関する詳細な史資料から、『復元する歴史的建造物の遺跡の位置・規模・構造・形式等について十分な根拠があり、復元後の歴史的建造物が規模・構造・形式等において高い蓋然性を持つこと』を確認しつつ、史跡等の本質的価値の理解にとって有意義であること等を含めて総合的な判断を行うこととなっており、100%忠実に再現するということはあり得ないものの、技 術的には『忠実性』を軸にその基準が定められている。」と示されている。(参考資料25「2.史跡等における歴史的建造物の「復元」の在り方(「復元」についての基本的な考え方)」) ・上記取りまとめには、「史跡等において再現(復元・復元的整備・その他の再現をいう。以下同じ)された歴史的建造物は、文化財保護法上、直ちに文化財として扱われるわけではなく、史跡等の文化財に準じた複製品(レプリカ)と捉えられる」ことや、他方で、「忠実性を追求し、再現される歴史的建造物の質が確保されるよう、適切に再現された歴史的建造物については、適切な評価を与えることが適当である」ことが示されている。(参考資料25「4.再現された歴史的建造物について」)市長ヒアリングからは、このとりまとめにおける歴史的建造物の価値や質に関する記述を引用し、可能な限り焼失前の姿とすべきとの強い思いが市長にはあったことが伺われた。 ・有識者からは、「主架構となる柱や梁は取らない、取り外しにより元に戻せる可逆性が担保されれば、文化庁復元基準の「復元」に該当する」との見解が示されていた。 ・文化庁は、名古屋城木造天守の復元に関し、「文化財のバリアフリー化と史跡等の文化財の価値を保存する形での整備につきましては、できる限り両立が図られることが大切」との考えを示していた。(令和2年4月3日第201回国会 衆議院 国土交通委員会) ・文化庁は、「文化財のバリアフリー化と史跡等の文化財の価値を保存する形での整備」について具体的な考え方や基準を定めておらず、整備内容等は、整備を行う自治体が判断することとしている。 ・市長は、「史実に忠実な復元」の考え方として、焼失前と同じ場所の真上に当時の図面をもとに同じ材料で同じ建築物を建てれば、その建築物は焼失しなかったものとみなすことになると考えていた。 ・市は、復元の目的は焼失前の天守の価値を現代に再現し訪れる方々に理解していただくこと(本質的価値の理解促進)と市民向け説明会等において説明していたが、職員の中には、名古屋城の復元計画について文化庁から評価をいただく前に、行政として「これは絶対に史実に忠実な復元だから大丈夫だ」とは断言できないと考えている者もいた。 ・職員は、「史実に忠実な復元」であっても、復元する目的が本質的価値の向上と理解促進である以上、歴史的な蓋然性を担保したうえで市民が観覧するために必要な整備は認められると考えていた。 ・所管副市長は、「史実に忠実な復元」の考え方として、文化財の復元であっても全くバリアフリー対応をしないということはありえないと考えていた。 ・文化庁復元基準の配慮事項として認められる現代設備について、市長は、同基準にはバリアフリーに関する記述がないため、記述のある「防災上の安全性を確保」するものに限られると考えていた。一方、所管副市長はじめ職員は、防災上の設備に限らずバリアフリー対応設備などの施設管理上必要な設備が含まれると考えており、有識者からも同様の見解を得ていた。 ・所管副市長ヒアリングによれば、「史実に忠実な復元」の解釈については文化庁復元基準のほかに客観的な定義はないため、「史実に忠実な復元」の認識について市長と職員の認識のすり合わせは相当回数行ったとのことであった。 ウ 評価 名古屋城木造天守の復元に対し、文化財のバリアフリー化と史跡等の文化財の価値を保存する整備について、「できる限り両立が図られることが大切」と、令和2年の国会で文化庁が明言していることからすると、文化財であっても直ちにバリアフリー整備が否定されるものではなく、どの程度までバリアフリー化を行うかが名古屋城天守木造復元事業を進めるうえでの課題となっており、 市はその両立を図るため、付加設備の方針を策定し、新技術の公募を行った。 それらも含め事業を進めるうえでの重要な観点とされている「史実に忠実な復元」の解釈について、資料やヒアリングを通じて様々な角度から確認したところ、柱や梁を傷めないことや規模・構造・形式において高い蓋然性をもつことといった抽象的な認識は共有されていたが、どのようなものがどの程度まで設置できるのか等、個別具体的な考え方等は市長と職員の間で十分に共有できていたとはいえない状況であった。 具体的に指摘すれば、市長は、可能な限り焼失前の姿とすべきであるとの方針の下に、「防災上の安全性を確保」する現代設備に限り設置することを原則とするとの考え方であったのに対して、所管副市長はじめ職員は、有識者からの見解も踏まえて、防災上の設備に限らず、バリアフリーに必要な設備を含めて建築物の管理上必要な設備の設置を行う必要があるとの考え方である。 このような市長と、所管副市長をはじめとする職員との認識の不一致について、市として認識を共通とするための努力はしたとはいうものの、両者の理解の間には相違が存在したままの状態で事業が進められていた。また、この他にも、文化庁復元基準の解釈をはじめ、考え方や認識が市長、所管副市長及び職員のそれぞれの間で一致しない点が存在したまま事業が進められていたところがみられた。 検証委員会としては、名古屋城木造天守の復元という大規模なプロジェクトを進めているにもかかわらず、市として理解や意識等を十分に共通のものとしないまま、本検証「2事前の準備(3)スケジュール設置の無理」(●頁)において触れたように、市がスケジュールの見直しを行うことなく当初の予定を優先して作業を進めたことが、市民の混乱を招くとともに、市民の間での意見対立を招いた背景にあると判断し、問題点として指摘するものである。加えて、こうした状況が、以下に示す市民への正確な情報提供の不十分性や、職員の苦悩や葛藤にも影響していると考えられることを指摘しておく。 (2)市民への正確な情報提供の不十分性 ア 問題点 竹中工務店による提案内容に対する検討内容をはじめ付加設備の方針の策定や新技術の公募に至る背景や事情など、名古屋城木造天守復元事業でのバリアフリーに関する市の考え方等が市民に正確に、明確に説明されてきたのか。 「史実に忠実な復元」等に対する市長と職員の解釈が不一致なまま、情報発信された内容にずれが生じてしまったことなどが、木造復元に対する市民の理解に差を生じさせたのではないか。 そうしたことを背景として、各々の市民の抱く木造復元に対するイメージと相まり、市民間の意見対立を招く遠因となったのではないか検証した。 イ 確認した事実 ・平成27年の公募型プロポーザルにおいて選定された竹中工務店からの提案には、小型仮設エレベーター(以下「小型EV」という。)が復元整備にあたっての検討項目として記載されていた。 ・市は、小型EVの設置を含む竹中工務店の提案内容について、市民向け報告会を開催し説明していた。 ・職員ヒアリングによると、竹中工務店提案の小型EVは、4人乗りであるが、車いすの方一人しか乗れず介助者が同乗できないことから採用しなかったとのことだった。 ・平成29年11月の天守閣部会において、木造復元天守へのエレベーター設置に対する市の考え方として設置しないという結論が示されたことが報道で広く市民に伝わったが、設置できない理由等は同部会及び資料において十分に説明されていなかった。 ・所管副市長ヒアリングによると、竹中工務店提案の小型EVについて、エレベーター業者に確認した結果、木造天守の狭い空間には地震に対する構造面の考え方から技術的に設置できないということが、後々わかったとのことだった。 ・木造復元天守へのエレベーターの設置に対する当該市の方針等の検討に際し、障害者団体など施設のバリアフリー対応に大きく関係する方々への意見聴取は行われていなかった。 ・令和3年11月30日の本会議で市長は、公募により幅広く提案を募り、より上層階、できれば最上階の5階までバリアフリー対応できる昇降技術を広く求めていくと答弁していた。 ・職員ヒアリングによると、市長は、一方で、公募による新技術について、磁力や車いすで直接、階段を上る技術を想定しており、垂直昇降する技術は想定していなかったようであった。 ・職員ヒアリングによると、市長は、公募選定後、選定された『昇降技術』を断面図で見て、これは「エレベーター」であるから設置は認められないとの見解を、副市長や観光文化交流局長以下の関係職員に示していたとのことだった。 ・職員ヒアリングによると、職員は、木造復元天守に設置すべき現代設備のうち、何のどこまでが許容出来て、何のどこまで許容できないと思っているのか、市長の考えの境界線がわからないとのことだった。 ・職員は、市長に対して、木造復元天守における市民の観覧上、必要な改変事項(照明設備や畳敷きなど)について、文化庁復元基準の「復元」の範囲内の改変であることの説明にとどまっており、細部については説明していなかった。 ・市長は、公募選定後の令和4年12月5日の市長定例記者会見において、「垂直昇降設備の設置は1、2階まで」と発言した。 ・市は、公募選定後の令和4年12月5日の市会経済水道委員会で、より上層階をめざす昇降技術を公募で選定したことについて、報告した。 ・令和4年12月6日の市会経済水道委員会において、市長と当局の発言の不一致について指摘された際、局長は、市長発言について、「市長の、史実に忠実な思い、それが表れたもの」であること、現時点では、「何階まで設置するということが決定しているわけではなく、最優秀提案者を決定したという、そういった段階でございまして、その提案は、より上層階を目指すものとなっております」と答弁し謝罪した。 ウ 評価 平成27年度の竹中工務店からの小型EVを設置するとの提案について、平成29年11月に、理由が市民に十分伝わらないまま、エレベーターを設置しないとする市の方針が明らかになったため、それまで小型EVが設置されると捉えていた市民は不満を感じることとなり、この時期から、エレベーターを設置しないことへ疑問を表明する市民に対して、エレベーターの設置を不要と考える市民の一部が誹謗中傷するような状況が生じていた。 その後、市として決定した付加設備の方針と新技術の公募要項では、バリアフリー対応として「可能な限り上層階」や「より上層階」と記して市民に対して情報発信している。市長も、令和3年11月の名古屋市会本会議で新技術の設置階層を「より上層階」と答弁していたが、公募選定後の令和4年12月の市長定例記者会見では、「垂直昇降設備の設置は1、2階まで」と発言している。一方、市としては、その後も市民に対して「可能な限り上層階」や「より上層階」との説明を行っていたため、市長の発言との間の整合性がとれていないとの疑問を生じさせることとなり、市民の混乱を招く状況を生じさせることにつながったと言わざるを得ない。 また、この市長の「垂直昇降設備の設置は1、2階まで」との発言は、加点要求水準として「できるだけ上層階まで昇降できる」との公募要件を満たす最優秀者の技術提案について、その技術的な検討が未了の段階において、既に垂直昇降技術の導入は1、2階までと決められているかのような印象を市民に与えるものとなった。 その結果、これまでの市の説明に基づいて、今後最優秀者の技術提案が検討されることによって「より上層階」への導入の可能性があると理解していた市民にとっては、公募により適正に選定された『昇降技術』を、市長自らが覆したような印象をもち、その市長の姿勢に強い疑問を持つこととなった。その一方で、垂直昇降技術の導入に消極的な見解を持つ市民の中には、最優秀者の技術提案の導入は既に1、2階までとの制限の中で検討されることになっていると理解して、その市長の姿勢を肯定的に捉える市民もいた。また、木造復元天守にはエレベーターを設置しないと理解していた市民の中には、市長の上記発言を、市長が垂直昇降技術の導入を受け入れた として、「史実に忠実な復元」を掲げていた市長が従前の方針を覆したという印象を持つ市民もいた。この段階で、『昇降技術』に対する市民の考え方の相違が改めて鮮明となったと考えられる。 このように、市長の発言と職員の市民に対する説明は、市民にとって極めて理解しづらいものとなっており、この点も、市としての共通認識がないまま市民に情報提供が行われていたことに起因している。 さらに、その後に実施されたアンケートには、昇降技術を「設置しない」との選択肢が含まれていたことから、このアンケートを受け取った市民が、公募で最優秀者が選定された段階にあっても、いまだ『昇降技術』の設置は決まっていないと理解する可能性を生じる一方で、市がこれまで行ってきた新技術の公募や最優秀者の選定は意味がなかったのではないかと理解する可能性も生じることとなった。 そうすると、新技術の公募と最優秀者の選定が行われた後の段階において、市民に対してその開催の意味が十分に説明されないまま無作為抽出によるアンケートと討論会が実施されたことは、前述した「可能性」を生じている点で、これまで進めてきた行政手続との関係があいまいなまま実施されたと言わざるを得ない。検証委員会としては、このように市民に対する必要な説明が不十分なままアンケートと討論会が実施されたことが、討論会における意見対立の素地を作り、差別発言が生じる遠因となったものと評価する。 そして、防災上の設備の他、手すりや照明設備の設置、5階の畳敷きなど、当時の天守からの改変事項についても、職員は市長に対しそれぞれの個別事項に関して詳細な説明を行っておらず、市長と考え方等を十分に共有できていなかった。この点は、次の項目に述べるとおり、職員に苦悩と葛藤が存在したことが影響していると思われるが、市長と職員との間に共通認識を形成するための対話を行うことが難しくなっていた状況に起因していたものと考えられる。 以上のことから、検証委員会としては、名古屋城木造天守復元事業におけるバリアフリー整備に関して、市として十分な共通認識がないままに市民に対して情報発信を行った結果、市民への情報提供に正確性を欠くこととなり、それが、バリアフリー整備に関する市民の理解や考え方を分け隔てることにつながり、市民間での意見対立を広げた遠因となったものと判断する。 (3)職員の苦悩や葛藤の影響 ア 問題点 市は、付加設備の方針に基づき可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指し公募を進めてきた。しかしながら、公募結果に対する市長の意向から、職員は、選定された『昇降技術』が採用されないおそれや、設置しても1、2階までとなる雰囲気を感じて対外的な説明が困難になった。 こうした状況のもと業務を進める職員の苦悩や葛藤が、アンケートや討論会の準備や、討論会での差別発言に対する不適切な対応に影響を与えた可能性について検証した。 イ 確認した事実 ・市長は、公募の最優秀者決定後に提案書に記載された垂直昇降技術の断面図を見た段階でこれを「エレベーター」だと判断した。それ以降、職員が市長に新技術に関する説明を行おうとしても話を聞いてもらうことが難しくなった。 ・令和4年12月5日の市長定例記者会見での「垂直昇降設備の設置は1、2階まで」との市長発言は、「可能な限り上層階まで」と定めた「付加設備の方針」の考え方と異なるため、職員は困惑した。 ・所管副市長ヒアリングや職員ヒアリングによれば、市長は、『昇降技術』の設置について反対する市民意見が自身に多く届いていることを理由に、設置しない考えを所管副市長や職員に示していたのであろうとのことだった。 ・職員は、公募結果に対する賛否について多くの市民意見があるため、市民との対話を重ねてバリアフリー対応の方針を策定する必要があると考えた。そしてそのためには、約2年が必要と所管副市長へ提案した。(資料27:木造天守バリアフリーの今後の検討について) ・所管副市長は、職員から、公募選定後の結果を踏まえて、バリアフリーの方針を策定するためには約2年が必要との提案を受けた記憶はないようだったが、仮にそのような提案を受けていたとしても、これまでに局長が議会等で表明してきた方針決定の時期をまずは守るよう努めるべきであり、職員がそうした議会等で表明してきた方針決定時期を踏まえない提案をしてくること自体がおかしいとの認識だった。 ・市長ヒアリングにおいて、『昇降技術』について、公募を経て選定したので設置はせざるを得ないという市長の認識であることを確認した。一方で、設置をした場合、復元した城の本物性を毀損すると考えており、設置は望ましくないとの思いを市長が持っていたことも確認した。 ・職員は、可能な限り上層階を目指すと付加設備の方針に定めていた以上、技術開発前の段階、すなわち技術的にどの階までの設置が可能なのかがかわかる前に、設置階層を決めるべきではないと考えていた。 ・所管副市長によると、所管副市長は、市長と職員の間に立って調整しながら事業を進めるため、『昇降技術』について、まずは1階に設置し、市民の理解を得ながら段階的に上層階へ設置していくという時間軸の概念を入れることで職員を説得していたが、多くの職員からは賛同は得られなかったとのことだった。 ・職員ヒアリングにおいて、市長レクや副市長レクの場での市長や所管副市長からの発言をパワーハラスメントと受け止めていた職員がいたことが分かった。 ・市長ヒアリングによれば、市長は、言葉遣いは丁寧ではないが、人格批判は絶対にしない、権利侵害のようなことはないとのことだった。 ・所管副市長ヒアリングによれば、所管副市長は、ハラスメント的な発言はしたことがないとの認識を示した一方、本人の受け取り方にもよる、とのことだった。 ・所管副市長によれば、市長レクでの市長の言動が職員の意識に相当程度、大きく影響していたと思うとのことだった。 ・所管副市長は、公募で選定した垂直昇降技術に対する市長の否定的な意向に対して職員が苦悩していることを感じており、自ら市長への説得を試みていたとのことだった。 ウ 評価 通常、プロジェクトを進めるにあたっては、内外の関係者との多くの調整等や、計画の修正・見直しなど、プレッシャーも含め、担当する職員には苦悩や葛藤が生じることは自然なことであり、特に名古屋城天守木造復元事業のような大規模なプロジェクトの場合には、尚更のことである。 職員は、市長の『昇降技術』の設置は1、2階までとの発言の対応策として、約2年をかけて市民との対話を重ねてバリアフリー対応の方針を策定する必要があると考えたが、市としては当初予定通りに令和5年8月を目標に進めることとなり、そのことに苦悩を深めた者もいた。 新技術の公募は、議会の議決を経て公費によって実施され、公募要件を満たした提案を事業者が行い、専門の評価員が適正に審査したものであり、こうした行政の適正な手続きを踏んで得られた結果であり市長も尊重すべきものである。 市長が『昇降技術』の設置を明確に否定した発言等は確認できなかったが、市長は、定例記者会見などの公的な場において「垂直昇降設備の設置は1、2階まで」と発言していたことから、所管副市長は市長が昇降技術を設置しないとの判断に傾きかねないことに強い不安を感じており、職員も市長の昇降技術の設置は望ましくないという思いをレク等で繰り返し耳にすることで、相当なプレッシャーを感じていた者もいたことから、市長が行政の長として、公募結果の遂行について職員が誤解することのないような配慮に欠けていた面があると考える。 また、職員は、討論会での市民意見に対して、『昇降技術』の設置自体は公募により決定していることを明確に説明できていなかったが、その背景には、市長の『昇降技術』への言動が職員の意識に少なからず影響していたと考える。 他方、所管副市長は、職員へのフォローや市長と職員間の円滑なコミュニケーションを取り持つ必要性を認識して対応を行っていたが、市長が公募で決定した『昇降技術』を「設置しない」と判断することを避けることに注力していた。その結果、所管副市長は、まずは1階に設置し段階的に上層階へ設置する考えを職員へ示したが、職員としては、「より上層階」を目指した技術を公募で選定したのに、その技術開発前から設置階を決定することになるため理解は得られなかった。そうした状況下で、職員は、市長の意向を気にしながら事業を進めることになり、対外的な市民説明に対する職員の苦悩をより強くさせてしまうことになっていたと考える。 また、職員に対するヒアリングでは、事業実施にあたって市長や副市長から受けた発言の中に一部パワーハラスメントと受け止められるものがあったと話す者もいた。パワーハラスメントについては、当委員会の検証対象ではないが、少なくとも、一部の職員がそう受け止めるほどに関係者間の円滑なコミュニケーションが取れていなかった状況があったということを指摘することができる。 これまで述べてきたことから、検証委員会としては、職員の苦悩や葛藤が、大規模プロジェクトであるにもかかわらず、市民間の意見対立へのリスク想定不足や配慮不足など、アンケートや討論会の準備に影響を与え、討論会当日における差別発言に対して適切な対応を行うことができなかった遠因になっていると判断する。 (4)公募選定後に無作為抽出によって市民討論会を開催した手法等 ア 問題点 公募結果により、いよいよバリアフリーの対応方針を策定するという段階になって、改めて無作為抽出によるアンケート及び討論会が実施された。このことで、公募の経緯等が無視されてしまったと受け取った市民もいたのではないか。また、公募前の状況に戻ったと受け止める市民もいたのではないかと思われる。公募以前の状況も含め、どのような経緯等によってアンケート及び討論会を実施することになり、それが職員の人権意識等に影響を与えた可能性等について検証した。 イ 確認した事実 ・市は、文化庁から「復元する木造天守にバリアフリーをどこまで施すかという点について、広く市民の合意形成を得てから計画を持ってきてほしい」と言われていた。 ・アンケートと討論会の実施について、事前に市から説明を受けた障害者団体と、受けていない団体があった。 ・事前に市からアンケートと討論会の実施について説明を受けた障害者団体の中には、職員に対し「公募で決まったものに関してなぜ必要なのか」という疑問を呈した団体もあった。 ・無作為に抽出された参加者による討論会を行うことについて、障害当事者は絶対数が少ないことを念頭に、「これまで進めてきた昇降技術やバリアフリー整備のことを否定する意見が、討論会の参加者の中で多数意見となった場合に市はどうするのか」といった懸念を示していた障害者団体もあった。 ・討論会の際には、実物大の階段を参加者に利用させて欲しいこと、また、参加者に対して「木造天守には消防法等の現代の法律に即した現代設備は整えられており、木造の完全復元とは異なる」ことを正しく説明してほしいという要望を伝えた障害者団体もあった。 ・市は、障害者団体からの意見等を時期的な制約もあって、アンケートに添付する資料には反映できなかったが、討論会当日の資料には「防災上の安全確保とバリアフリー(出火防止、避難誘導、初期消火、スロープ、昇降設備など)」と記載し、反映していた。 ・討論会について、障害当事者としては、人権・尊厳をかけた問題を扱う場と認識していたが、市は、委託業者も含めて、イベント的な集会と認識していたのではないかとの疑問を感じていた障害者団体もあった。 ・一部の障害者団体は、多くの誹謗中傷が団体に届いていることを名古屋城総合事務所に伝えており、市もそうした誹謗中傷をある程度、認識している状況にあった。 ・市は、木造復元事業に関連して、障害者団体に対する誹謗中傷が発生していたことを認識していたが、会議等を非公開とする以外の対応をしていなかった。 ・なお、第4(1)に記載のとおり、討論会が開催される以前には、市民説明会が幾度となく開催されてきた。令和6年3月及び令和6年5月開催の名古屋市会経済水道委員会において、この市民説明会に関する疑義等について調査され、同年7月4日に同委員会から、当該調査の際に使用された資料(以下「市民説明会総点検資料」という。)が検証参考用として当検証委員会に提供された。 ・市民説明会総点検資料の令和元年度分のヒアリング内容によれば、障害者団体の代表者が「エレベーターをつけろと言ったら、えらいことになるわな」と市民説明会への参加を躊躇する発言に対し、職員は「そのようなことがあれば、きちんと制止しますよ」と述べているほか、市民説明会の会場の様子が障害者団体としては近寄りにくかったかもしれないと感じている職員がいたことが記載されている。(参考資料29) ウ 評価 一般論として、特定の集団や団体等に直接的に大きな影響を与えてしまうような施策の検討にあたって、無作為抽出によるアンケートや、討論会などを実施する場合であっても、その結果のみによって方針等を決定するのではなく、別途、直接影響を受ける関係者等から聞いた意見も加味して方針等決定するのであれば、無作為抽出によるアンケート等の実施は手法の一つとして否定されるものではないと考える。 また、本件公募に関しては、バリアフリー法の一部を改正する法律案に対する附帯決議に基づき、さまざまな段階でワークショップを開催し障害者等の意見聴取を反映したものであるため、その選定結果が否定されるようなアンケートや討論会であってはならない。 ところが、今回実施された市民に対する無作為抽出によるアンケートと討論会に関しては、その実施について障害者団体への十分な説明や理解を求めていたとは言い難く、障害者団体から事前に伝えられていた懸念や要望等に対しても、十分な対応が行われていなかった。 今回のように、新技術の公募が行われ、最優秀者の選定を終えた段階で、無作為抽出によるアンケートと、これに伴う討論会が実施されるのであれば、その実施に際しては障害者団体等直接影響を受ける関係者への十分な説明や意見聴取の機会が設けられた上で実施されることが必要であるし、市民に対しては、最優秀者の技術提案がどのような技術であるのか、今後の技術開発の状況を見ながら設置場所や内装の状況を加味して何階まで設置するのかが検討されていくこと等が説明されている必要がある。 しかし、今回の無作為抽出によるアンケートや市民討論会の実施に際しては、上記のような市民に対する必要な手続きと説明が不十分なままであり、この結果、市民に対して公募に基づく最優秀者の選定を終えているにも関わらず、今回の市民討論会において、改めて垂直昇降技術の導入を、その是非も含めて検討する場であるとの印象を与えることとなっている。このことは、市民に対して最優秀者の選定を無とする印象を与え、これまで進めてきた行政手続との関係を曖昧なものにしたと言わざるを得ない。 以上の点を踏まえて、検証委員会としては、新技術の公募と最優秀者の選定が行われた後の段階において、市が無作為抽出によるアンケートと討論会を実施する場合に、市において尽くすべき手続きと説明が欠けていたことによって、市民に対して今回の討論会が垂直昇降技術の導入の是非を議論する場であるとの印象を与えたことが、討論会における意見対立の素地を作り、差別発言が生じる遠因となったものと評価する。 なお、組織としての人権感覚の希薄さについても付言すると、市は、木造復元事業のバリアフリーの対応方針に関連して、障害者団体に対して人権侵害に当たる誹謗中傷が数多く届いていたことを認識していたにも関わらず、事業の実施主体である市として、会議等を非公開とするほかは特段の対応をしてこなかった。しかし、例え間接的ではあっても、市の事業を原因として、人権侵害に発展するようなことはあってはならない。 加えて、市民説明会総点検資料では、市は市民説明会に関する障害者団体の懸念に対してトラブルが起こってから対応するとしているが、トラブル予防に関する言及はなく、障害のある方に安心して参加し発言していただくためにどうすべきかという人権意識が働いていなかったことがうかがわれる。 また、障害者団体は、討論会がバリアフリーをどのように実現するかを人権・尊厳の観点から考える重要な場であると認識していたところ、市は討論会を毎年実施していた市民向け説明会と同様に、名古屋城の木造復元に関する事業説明の場であり、文化庁提出のスケジュールに向けた作業の一つと捉えており、市には、討論会が人権にかかわる訴えを聴く貴重で重要な場であるという認識は、ほとんどなかった。 こうした過去からの状況も含めて、無作為抽出によるアンケートと討論会の実施に至る経緯を考えると、市に対しては事業当初からの組織としての人権感覚の希薄さを強く感じざるを得ない。そうした風土が本件差別事案の遠因だったことは明らかである。 木造天守のバリアフリー化をどうすべきかに関して市民の間で見解の相違があることは、市としては既に十分認識していた点である。そうであるからこそ、市は、委託事業者を含めて社会構造的差別の現状を十分に踏まえ、激しい対立意見として人権侵害が生じることがないように細心の注意を払いながら事業を進めるべきところ、そうした人権感覚が不十分であったことは否定できない。検証委員会としては、これまで事業の実施にかかわった、市長・副市長を始めとした関係者の人権感覚の希薄さが差別事案の背景・遠因となっていたものと判断する。 第6.再発防止に向けて取り組むべき事項 1 中間報告時点(令和6年2月14日)における提言 (1) 職員研修の充実 ア 人権意識・人権感覚の育成 人権に関する職員研修については、これまでも新規採用時のほか、係長昇任前や課長昇任時といった各階層の節目ごとの研修や各職場等の研修において幅広く継続的に実施されている。 一方、本検証の中で、人権上のリスク想定や予防対策の検討・準備が不十分であったこと、差別発言に対する問題意識や差別事象対応マニュアルの認識不足等、討論会全体にわたって関係職員の人権問題に対する意識の低さを指摘したところであり、本件事案の結果を受けて、今後、これまで以上に高い人権感覚を持って、差別発言等による人権侵害を発生させない、発生した場合においてもそれを敏感に捉えて積極的に行動できる職員の教育に市全体で取組んでいく必要があると考える。 今回の差別事案を通して、改めて人権とは何かを自分事として理解するため、今回の差別事案及び本検証結果を確認する内容を人権科目に追加し、人権意識・人権感覚を高める取組みが必要である。また、ワークショップ等の参加型人権教育を通じて、人権の大切さを知識として知るだけでなく、習得した知識を行動に結びつけることのできる実効性のある研修の内容を検討すべきである。 イ 障害及び障害者理解の一層の促進 課長級職員、窓口等職員並びに市の指定管理事業者に対しての障害及び障害者理解に関する研修については、コロナ禍のため令和2年度からeラーニングを中心に行われていたが、本件事案を受けて、令和5年度は障害者の擬似体験や障害当事者も参加するグループワークなど、受講者が主体的に考えることで、障害及び障害者理解の一層の推進を図る研修が実施されている。今後は、研修対象者に係長級職員を含めるなど、より広い対象への拡大や今回の差別事案の内容を盛り込む等により、障害者差別について、より一層適切に理解できるよう検討すべきである。 (2) 障害者差別解消の推進に関する法律、条例の周知徹底 「全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」という理念の下、障害者基本法では、基本原則の一つとして「差別の禁止」を掲げており、それを具体的に実現するための法律が、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)である。さらに、市では、障害を理由とする差別の解消を一層推進していくために、名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例(障害者差別解消推進条例)を施行している。 職員が、それら法及び条例の趣旨を理解し、障害のある方に対して適切に対応するための基本的事項を記載した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領(以下「市職員対応要領」という。)が定められている。今回の差別事案を踏まえ、令和5年12月に、再発防止の心構えや、具体的な対応方法等を追加した市職員対応要領の改正を行い、全職員へ周知を図ったとのことであるが、今後も会議や研修等の機会において、市職員対応要領を活用する等により、障害者差別解消法及び障害者差別解消推進条例の周知徹底を図っていくことが望まれる。 (3) 人権施策推進会議(局長級)・幹事会(課長級)の企画運営の見直し 市では、人権に関する諸施策の連絡調整及び総合的な推進を図るため、全副市長及び各局局長らで構成する「人権施策推進会議」及び課長級職員で構成し、同会議を補佐する「人権施策推進会議幹事会」を設置している。 市民の人権は、女性、子ども、高齢者、障害者、部落差別(同和問題)、外国人、セクシャル・マイノリティ(LGBTなどの性的少数者)の問題など、あらゆる市の事業に広範な範囲で関わっているが、現状、会議の実施内容は、人権施策基本方針に基づく毎年度の事業計画や実績報告を中心に行っているため、各局において会議の内容を周知したとしても、職員が直接的な業務との接点を認識しづらく、結果として十分な理解と、現場での活用にまで活かせていないのではないかと考える。 したがって、例えば、さまざまな職場で、実際に発生した具体的事例や、市の事業において発生しうる事例とその対応について、職員一人ひとりが人権問題を自分事として理解を深め、各局が事業を実施していく上で参考にできるような実践的な会議運営を検討すべきである。なお、会議運営にあたっては、外部有識者から助言指導していただくなど、外部の視点を入れることも合わせて検討すべきである。 本事案を検証する中で、差別用語を知らない職員が少なからずいることが分かった。差別用語を知らなければ、適切な対応もできないため、例えば、幹事会では差別用語について研究・検討したうえで用語集を作成し、定期的にその用語集の見直しを行っていくなど、人権について恒常的に意識し、考えていく取り組みも検討されたい。その場合、差別用語がどのような意味あいを持ち、どのように差別の助長につながるのか等、背景や歴史を含めて学ぶことによって、差別発言に対し適切な対応を実践できる能力を高めることが重要である。 (4)差別事案発生防止のための体制づくり スポーツ市民局は人権全般についての事業を、健康福祉局は障害者差別に関する事業をそれぞれ推進しているが、その他の局においても事業を実施する際は、それぞれが主体的に適切な判断を行うことが必要である。 そのため、市民が参加する全ての事業について、人権の視点からの相談や内容のチェック等を行う「人権に関する責任者」を、各局に少なくとも1名置くことを検討すべきある。 その実効性の担保として、しっかりとした知識と能力を有した責任者を育成するため、より実践的かつ専門的な、人権に関する育成制度を構築するなどの取り組みを行う必要がある。 (5) 差別事象マニュアルの抜本的見直し 現在のマニュアルは、差別発言や落書き、インターネット上の書込みがあった場合の対応について定められている。 市全体で利用するマニュアルの性質上、さまざまな職場で利用できるよう一般化された基本的な考え方や対応のポイントのみを記載し汎用性を高くさせているようだが、こうした内容では実際の現場で差別が生じた場合に、必ずしも適切に対応できるとは限らず、実際に本件事案については全く活かされることはなかった。討論会開催後、既に一部表現の手直し等はされているが、より抜本的な見直しが必要であると考える。 会議やイベント、YouTube等の動画配信など、広く市民が見聞きできる状況においては市民に与える影響も大きい。そうした状況も含め、実際に差別が発生しやすい場面を想定し、事前準備の心構えをはじめ、差別発生を予防するための発言例や、差別発生時の具体的な行動例を示すとともに、なぜそうしたことが必要なのかということが理解できるような解説を加えるなど、職員が実際の場面で自信をもって具体的に活用できるようなものとすべきである。 また、例えば、市民参加の催し等の冒頭など場面に応じて、差別に関する注意喚起を行うなど、主催者としての適切な対応を浸透させることも求められる。 (6) 市民・事業者の障害及び障害者理解の一層の促進 障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を市民みんなで実現するためには、市民・事業者に対して障害や障害者に関する正しい理解を促進することが重要である。 市では、市民・事業者が、障害及び障害のある方への理解を深めるとともに、社会的障壁を取り除くための配慮やサポート方法等を学ぶことができるよう、障害のある方を含む講師を派遣し、講演や実体験を通じた学びの機会を提供する「障害者理解に関する講師派遣事業」の実施や、障害者団体等と連携した講演会やシンポジウム等の実施、ウェブサイトやガイドブックを活用した広報等により理解の促進が図られているところである。今後、 市民・事業者のより一層の理解を促進するため、新たな啓発事業の実施等、関連する施策の充実強化を検討すべきである。 (7) 対話によるバリアフリーを推進するための仕組みの整備 市が公共建築物を整備するにあたっては、バリアフリー法等に基づく不特定多数を対象とした環境の整備に係る施策と、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供を両輪として市民の合意のもとに進めることが重要である。 バリアフリーの一層の推進と、事業者や行政では気づくことができない安全性や使いやすさ等のニーズを施設整備へ反映させるため、障害者や高齢者をはじめ配慮を必要とする当事者からの意見聴取や対話の仕組みを整備することを検討すべきである。 (8)その他 なお、再発防止に向けて検討すべき事項は、以上の事項に限定されるものではなく、これら以外についても、市において主体的・積極的に取り組むべきである。 2 市民からの信頼回復に向けた最終提言 市として、多様性を尊重し、あらゆる差別を許さないという人権に対する明確な意思を示しそのための施策を実施することが必要であるため、以下の2点を提言したい。 (1)障害者差別解消の推進に関する条例の改正 名古屋市においては、平成31年4月1日から「名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例」(令和6年4月1日改正、以下「本条例」という。)が施行されている。しかし、本条例では、差別相談の相手方としては事業者のみを想定しているため、相手方が市となる場合に対応することができない。そうすると、本件の討論会のように、一部の参加者から同じく参加した障害者に対して差別発言がなされた際に、主催者たる市職員がこの差別発言の制止または注意喚起などの適切な対応を行わなかった場合に、差別発言を受けた障害者が本条例に基づいて差別相談センターに対して市を相手方とする差別相談を行うことも、また、名古屋市障害者差別解消調整委員会を通じての助言またはあっせん、措置の求め及び勧告の手続きをとることもできないことになる。この点を改善するため、本条例において、差別相談の相手方として市を加えるとともに、市を相手方とする助言またはあっせん、措置の求め及び勧告の手続きを行うことができるよう改正することが必要である。 また、討論会において、一部の参加者から差別発言が行われた際に、市の職員がこれを制止または注意喚起を行う等の適切な対応をとることができなかったことを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)第10条第1項に基づき、市が市職員対応要領を定めることを本条例に明記するとともに、今後同様の事例が生じた場合に市職員が適切な対応をとることができるよう研修等を通じて周知を行うことを明記する必要がある。そして、市職員が、この市職員対応要領を遵守することも、合わせて明記することが必要である。 そして、今後同様の事案が生じないようにするためには、市、事業者、市民が障害者に対する偏見・差別のない共生社会を実現するために協調していくことが重要である。そのためにも、本条例において、障害者に対する偏見・差別を解消するための行動指針を示すことが必要であろう。このことは、日本が締約国となっている「障害者の権利に関する条約」の第8条に定める「意識の向上」において、「障害者に関する社会全体(各家庭を含む。)の意識を向上させ、並びに障害者の権利及び尊厳に対する尊重を育成すること」(同条第1項(a))との規定を、地方自治体レベルで具体化することとなり、その意義は大きいと言える。 (2)実効性のある人権条例の制定 現在、市には、特定分野の人権尊重に関する条例(男女平等参画推進なごや条例、なごや子どもの権利条例、障害者差別解消推進条例など)があるが、人権課題には様々なものがあり、さらにその複合性に鑑み、それら諸条例を補完し、本市の人権尊重の根幹となる包括的で実効性のある人権条例の制定を求めたい。 さらに、検証委員会としては、名古屋市が、我が国における人権尊重のまちづくりの先頭に立ち、他都市をリードし全国水準を高めていく「人権施策先導都市」となることを目指して、1歩も2歩も踏み込んだものとすべきであると考え、以下に方向性を示す。 (基本的考え方) ・差別は、単なる個人の意識の問題のみではなく、多数派にとって優位な社会構造から発生し、無自覚であることの問題も大きい。このことから、社会構造的な差別の根絶を目指すとともに、社会構造的差別を含むあらゆる差別を認識し対応できるよう職員の高い人権意識・人権感覚を養成すること。 (体制の方向性) ・行政として、あらゆる人権侵害から市民を守る必要があることから、既存の相談窓口では対応できないような差別事案(複合差別を含む)についても漏れなく対応し、単なる助言にとどまらず関係団体等と連携協力しながら解決につなげられるようにしていくこと。 ・人権侵害に関する相談機関での解決が困難な場合や、市が人権侵害の主体である場合に、市民にとっては裁判など煩雑な手続を避け、やむをえず受忍することも考えられる。このことから、市の人権救済に対する姿勢を明確にするため、解決困難事例や、市の施策に対して人権上の疑義が生じている場合に、市から独立した立場で調査し、市へ必要な提言ができる権限を有した専門機関の設置を検討すること。 ・人権に関する相談や調査にあたっては、当該人権に関する当事者視点を取り取り入れることができるような仕組みの構築に努めること ・人権施策の重要性を十分に踏まえて、人権施策の検討・実施に必要な予算と人員を確保するように努めること (取組みの方向性) ・社会に根付いた差別の解消は、一朝一夕には解消しない。このことから、人権が尊重され、差別のない社会に向けて、子どもの頃からの人権教育の重要性を認識し、ライフステージに応じた人権教育・啓発を実施し、人権意識や人権感覚の育成に取り組むこと。 ・市職員には、特に高い人権意識や人権感覚が強く求められるため、市職員に対する人権教育・啓発に関する研修制度を拡充・充実すること。 ・市民が日常生活・社会生活を送るうえでは、行政に限らず、さまざまな事業者や地域社会との関わりも深い。このことから、事業者や地域社会における人権尊重の取組みへの支援を含めて、地域が一体となって人権尊重のまちづくりに資する内容を検討すること。 ・インクルーシヴ社会の実現のために、多様性を認め合い包摂することが組織の機能を向上させることを示すとともに、そうした視点に基づく実践を共有・発信するプラットフォームの構築を検討すること。 ・誤った情報や不十分な情報によって偏見や差別が助長され、人権侵害につながることがある。このことから、人権の視点での情報の質の保障を含めた内容を検討すること。また、情報の質の保障については、情報の受け手が情報を入手し理解できるものにすることも含めて検討すること。 ・インターネットやSNSには、匿名性を悪用した誹謗中傷や差別を助長するような表現の掲載がなされ、拡大・拡散される悪質な事例も散見されおり、今回の名古屋城の件でも発生していた。このことから、インターネット上での不当な差別的言動による人権侵害へ対応できる内容を検討すること。 ・ 市や職員が直接的に差別をしないことはもちろんのこと、間接的にも差別に関与することがないよう努める必要がある。このことから、市の施設等での差別的言動への予防や対応に関する内容の検討を行うこと。 第7 おわりに 平成26年6月から令和5年6月の市民討論会までの長期にわたる事項について調査、検証してきた。 検証していく中で、市長、所管副市長及び職員のそれぞれの間で、文化庁復元基準の解釈をはじめ、考え方や認識が一致しない点が存在し、それらの一致を図るよう努力したものの、結果として、一致しないまま事業が進められていたところがあり、職員には苦悩や葛藤が生じていた。 こうした状況が、市民への正確な情報提供の不十分性を招くこととなり、結果として市民の間で誤解等が生じたまま、スケジュールの見直しをすることなく当初の予定を優先して作業を進めたことが、市民の混乱を招くとともに、市民の間での意見対立を招いた背景にあることを指摘した。 そうした点を市は十分に理解したうえで、市長、副市長及び職員は、各々、事業推進に関する認識等の共有を形成し、正確な情報発信等に努力するとともに、市長は行政機関の長として、市民の誤解や分断を生じさせることがないよう十分意識して、円滑な事業運営をされるよう努められたい。 加えて、市は、本報告書の内容をよく理解していただき、人権は市民にとって最も大切なものであることを改めて認識し直し、障害者をはじめ様々な立場の市民の人権に関わる事業を推進する際には、当事者の意見を真摯に聴くとともに、建設的な対話を通じて当事者の真意をしっかりと捉えながら、人権侵害を生じさせないよう事業を実施されたい。 おわりに、市は、日本を先導する実効性のある人権関係条例を新たに制定し、名古屋市の人権に対する姿勢を市民に明確に示すとともに、条例を拠り所とした施策を着実に展開することにより、市民がお互いの人権を尊重し、安心・安全に暮らせる社会が構築されることを期待する。 《白紙ページ》 【《水色マーカー始まり》最終報告《水色マーカー終わり》で参照している参考資料】 資料1 「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」における差別事案に係る検証委員会設置要綱 資料2 木造天守閣の昇降に関する付加設備の方針 資料3 名古屋城バリアフリーに関するこれまでの経緯(令和5年6月15日実施の経済水道委員会資料・抜すい) 資料4 名古屋城木造天守への昇降機設置への賛否まとめ(令和4年12月)(令和5年2月7日実施の副市長レク資料) 資料5 市民討論会の開催に関して、市長・副市長・局長への説明や意思決定に関わった職員及び説明資料 資料6 名古屋城バリアフリーに関するアンケートへのご協力のお願い 資料7 アンケート調査票 資料8 アンケート調査票(案)(令和5年3月30日実施の市長レク資料) 資料9 名古屋城バリアフリーに関するアンケートへのご協力のお願い(令和5年4月4日実施の市長レク資料) 資料10 名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募 公募要項(抜すい) 資料11 名古屋城バリアフリーに関する市民討論会開催までの経緯(令和5年6月30日実施の経済水道委員会資料・抜すい) 資料12 名古屋城木造天守のバリアフリーの方針(令和5年5月30日実施の市長レク資料) 資料13 焼失前の天守に対する木造復元天守の主な改変事項 資料14 感想記入用紙の記載内容 資料15 名古屋城木造復元 昇降技術に関する市民意見の聴取 企画書(令和5年3月15日実施の副市長レク資料) 資料16 みちまち市民ミーティングの開催 資料17 市民討論会参加申込書 資料18 市民討論会参加申込書の項目(抜すい) 資料19 特別史跡名古屋城跡木造天守整備基本計画に取りまとめるバリアフリーの方針について(令和5年2月7日実施の副市長レク資料) 資料20 名古屋城木造復元 昇降技術に関する市民意見の聴取 企画書(抜すい)(令和5年3月10日実施の局長レク資料) 資料21 市民討論会会議録(17頁抜すい) 資料22 市民討論会会議録(20頁抜すい) 資料23 市民討論会会議録(23頁、24頁抜すい) 資料24 市民討論会会議録(27頁抜すい) 《水色マーカー始まり》資料25 史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループ天守等の復元の在り方について(取りまとめ) 資料26 史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準 資料27 木造天守バリアフリーの今後の検討について 資料28 名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会に係る検証報告書(21頁抜すい) 《水色マーカー終わり》 資料29 検証のために使用した資料 《中間報告で公開済みの参考資料1から参考資料24までは添付なし。新規に公開が予定される資料25から資料29まで添付あり。》 《(参考資料25)史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループ天守等の復元の在り方について(取りまとめ) 》 史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループ 天守等の復元の在り方について(取りまとめ) 令和元年8月 1 ‐目次‐ 1.はじめに -史跡等における歴史的建造物の再現の意義- 2.史跡等における歴史的建造物の「復元」の在り方 (「復元」についての基本的な考え方) 3.「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の史跡等における再現について (1)意義 (2)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現に関する指針の必要性 (3)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現の在り方 (4)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現に必要な手順等 (5)適切な再現といえない再現について 4.再現された歴史的建造物について (1)再現された歴史的建造物の価値について (2)再現された歴史的建造物の評価の在り方について 2 1.はじめに -史跡等における歴史的建造物の再現(注1)の意義- ○往時の歴史的建造物が失われ、大地に遺された遺構のみとなっている史跡等においては、その本質的価値が理解されにくく、歴史像が描かれづらい場合がある。 ○そのような史跡等において、歴史的建造物を適切に復元等することは、国民が文化財の価値を享受することにつながるものである。 ○多種多様な史跡等(近世城郭等)は重要な文化資源であり、効果的に再現することにより、歴史と文化の資源を活かした地域づくりが期待でき、市民の誇りの醸成や観光資源としての魅力向上につながる。 ○平成29年に出された文化審議会第一次答申においても、 ・「文化財の持つ潜在的な力を一層引き出し、多くの参画を得ながら社会全体で文化財を支えていくためにも、文化財の魅力の発信強化が必要である。」 ・「史跡における復元建物は…(中略)…その価値を広く知ってもらうためのものであり、適切に行われるのであれば、文化財の積極的な活用に資するものである。」 ・「天守復元の動向など、地方公共団体の実態を含め全国的な動向を把握した上で、復元建物の在り方について積極的に調査検討することが必要である。」 と答申されている。 このため、史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループでは、近世城郭における天守等の復元などを中心に、史跡等における歴史的建造物の復元の在り方について検討を行った。 ○なお、残存する遺構は再現不可能な貴重な遺産であるため、再現に当たって、史跡等の遺構を破壊しないということは前提であり、再現の検討に先立って、遺構への影響について検証しておくことが必要である。 ○国指定文化財のみならず、地方指定や未指定の文化財においても、遺跡上での歴史的建造物の再現を含めた保存・活用がなされているが、これらの取組が遺跡にとってより有効なものとなるよう、本とりまとめを参酌した上で検討を進めることが望ましい。 《本文外に注1について記載》 本報告書では、歴史的建造物の再現について、次のように用語を使い分けることとする。 ・「復元」…史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準に基づき、往時の規模・構造・形式等を忠実に再現する行為 ・「復元的整備」…史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準に基づき、利活用の観点から、外観を忠実に再現しつつ、内部の意匠・構造を一部変更して再現する行為 ・「再現」…「復元」、「復元的整備」その他の再現の総称 注:なお、史跡等に整備される建造物には、 ・史跡等の構成要素となっている現存する歴史的建造物 ・「復元」、「復元的整備」により往時の歴史的建造物を再現した建造物 ・トイレ、休憩所などの便益施設や管理施設などがある。《再現の中に「復元」「復元的整備」「その他の整備」が内包されていることが分かる図あり》《注記終わり》 3 2.史跡等における歴史的建造物の「復元」の在り方(「復元」についての基本的な考え方) ○史跡等の価値や歴史的事実を正しく伝えていくため、「復元」は史資料や十分な研究成果を踏まえた学術性に裏打ちされていなければならない。その際、「復元」は遺跡全体を視野に入れて丁寧に考えなければならない。 ○国際的には、「修復の目的は、(中略)オリジナルな材料と確実な資料に基づく」必要があり、「推測による修復を行ってはならない」(ベニス憲章第9条)等としながらも、各国ではやむを得ない場合に再現を行うなど、様々な対応がなされている。 ○我が国でも、国際憲章等に示された考え方を尊重しつつ、発掘調査の成果や信頼性のある史資料等を根拠とし、多角的で十分な分析及び検討を踏まえて「復元」を実施してきた(「史跡等における歴史的建造物の復元に関する基準」(以下、「復元基準」という。)参照) ○このため、「復元」に係る「復元基準」については、今後も維持していくことが適当と考えられる。 《赤囲み開始》○なお、「復元基準」において、「復元」は、往時の歴史的建造物に関する詳細な史資料から、「復元する歴史的建造物の遺跡の位置・規模・構造・形式等について十分な根拠があり、復元後の歴史的建造物が規模・構造・形式等において高い蓋然性を持つこと」を確認しつつ、史跡等の本質的価値の理解にとって有意義であること等を含めて総合的な判断を行うこととなっており、100%忠実に再現するということはあり得ないものの、技術的には「忠実性」を軸にその基準が定められている。《赤囲み終わり》 3.「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の史跡等における再現について (1)意義 ○現存しない歴史的建造物の史跡等における再現について、史跡等を正確に理解する目的に加え、どのような意義が付与されてきたか明らかにすべきであるところ、 ・地域の事例を見ると、様々な再現手法を交えて総合的な整備がなされ、歴史的建造物の再現が史跡等の本質的価値の理解や往時を体感することの実現に貢献していることはもちろん、波及的に、まちづくりの中核としての役割や観光振興の柱としての役割を果たしていること ・個別の事案によって意匠・形態の詳細な部分の忠実度や整備手法は多様であるものの、「復元基準」にいう「復元」に合致しないものも含めた再現により、史跡等の魅力向上等に繋がっている例があることなどが確認された。 4 ○「復元的整備」をはじめ、「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の史跡等における再現としては、例えば、便益的な機能が入った歴史的建造物として整備することや、にぎわい創出のための活動にも転用できる歴史的建造物として整備すること等が考えられる。このような「復元」以外の再現については、「復元」と比べて意匠・形態の詳細な部分の忠実度等に差はあるものの、適切に整備が行われれば、史跡等の本質的価値の理解促進に加え、上述のような意義も認められると考えられる。 (2)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現に関する指針の必要性 ○地域振興や観光振興も視野に入れた地方公共団体等からの天守等の再現に向けた要望があるものの、史資料等の残存状況は個々の案件ごとに違う。 ○「復元基準」には、2.で挙げた「復元」のほか、外観を復元しつつ、屋内の利活用の観点から内部の意匠・構造を変更して、建築物その他の工作物を遺跡の直上に再現する「復元的整備」について規定している。 ○史跡等においては、「復元的整備」を含め、「復元」以外の再現がなされてきたにも関わらず、「復元基準」において再現の在り方が明示されているのは、「復元」と「屋内の利活用の観点から内部の意匠・構造を変更」する「復元的整備」についてのみである。 ○歴史的建造物の「復元」については、「復元基準」において忠実度を軸にして詳細な基準が定められ、「復元」に必要な事項や手順がある程度明確になっており、往時の歴史的建造物を可能な限りありのままに体感するための有効な指針といえる。 ○他方、「復元基準」においては「復元的整備」の定義がなされているものの、現状では「復元基準」を参考にして検討するということ以上の規定はない。 このため、現行の「復元基準」は、「復元的整備」の目的である史跡等の「利活用」を実現し、目的を達成する効果を引き出すために有効な指針になっているとはいえない。 ○以上のことから、史跡等の本質的価値の理解促進を図りつつ、魅力向上に貢献するための再現に役立つ指針が、「復元」に係る基準以外にはない状態といえる。このため、現存しない歴史的建造物の史跡等における再現の整備目的・効果を踏まえ、現行の「復元基準」で定義されている「復元的整備」に加え、「復元」以外の再現についての許容範囲や内容などを明らかにし、新たな「復元的整備」として明確にする必要がある。 5 (3)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現の在り方 ○これまで、調査を尽くしても史資料が満足に揃わない場合の再現や、史跡等の利活用の観点等から構造等の一部を変更して行う再現がなされてきた。 ○「復元」に合致しない再現としては、 1 史跡等の利活用の観点等の事情から、内部・外部の構造等の一部を変更して行う再現 2 調査を尽くしても史資料が満足に揃わない場合の、現存しない歴史的建造物の再現であって、内部・外部の意匠・構造の一部が往時のそれとは異なるもの(類似の建造物などを参考に整備する場合など) などが想定される。 ○現状では、「復元的整備」についての具体的な基準はなく、こうした再現を行うに当たっては、「復元基準」を参考にしつつ、当該史跡等の本質的価値の継承及び理解促進の観点から検討を行うこととされているが、同基準は、主に忠実性の観点から「復元」として適切かどうかを定めているものである。 ○このため、「忠実性」という観点以外の目的(例えば、史跡の利活用の観点等)を持つ再現について基準を明確にし、史跡等の保存・活用が効果的になされるように、その手順や留意点を示すことが必要であると考えられる。 ○なお、忠実度を主な観点としている現状の「復元」と比較して考えると、再現を行う往時の歴史的建造物の位置・規模・構造・形式等が確認され、調査研究が尽くされることが求められるのはいうまでもないが、「復元」に合致しない歴史的建造物の再現に当たっては、 ・史資料が不十分な場合には、どのように再現したのかのプロセスを明示する必要がある。 ・明らかに史資料等の根拠が薄く、再現すべきでない場合や平面表示にとどめておくべき場合がある。このため、まず史跡等の本質的価値の理解促進のために再現が一番良い方法なのか、復元・復元的整備の類型やそのどちらにも当たらない場合に、どのような留意事項を遵守すべきか整理する必要がある。 ・可能な限り忠実性を追求し、再現される歴史的建造物の質を確保するように促すためのインセンティヴを考えなければならない。 などの問題提起が出された。 ○これらも踏まえて、「復元」に合致しない再現に当たっての手順と留意事項を以下のとおり示すこととする。 ・再現の目的・効果を整理し、それを実現するための手順・留意事項 ・史資料が一部不明確な場合、一部構造等を変更して再現するに当たっての手順・留意事項 6 (4)「復元」に合致しない、現存しない歴史的建造物の再現に必要な手順等 ○「復元」に合致しない再現については、遺跡全体を理解しやすくするため、再現の目的・効果を整理し、再現後の歴史的建造物の具体的かつ効果的な利活用方法を検討し、それに応じてどのように歴史的建造物が再現されるか整理しておくことが重要である。 ○一つの再現案に拠らず、多様な再現案を丁寧に検証することが必要である。 ○再現に向けて様々な資料整理がなされるにも関わらず、その資料を公表等するルールが徹底されていないため、再現のために収集した史資料や検討プロセスを記録に残し、公表することが必要である。 このため、以下の手順を踏むことが必要である。 【手順】 ○様々な整備手法のうち、歴史的建造物を再現することが史跡等の本質的価値の理解促進や史跡等の保存・活用の推進に最も資すると明らかにすること ○史資料を十分に検討のうえ、以下の記載事項を盛り込んだ史跡等全体の保存活用計画・史跡等全体の整備計画を策定すること @ 再現の目的・効果 A 再現後の具体的な利活用方法 B 再現が史跡等の本質的価値の理解促進や史跡全体の保存・活用の推進に寄与すること C 具体的な再現案 ○歴史的建造物の再現案を多角的に検討できる体制・実施体制を整備すること ○往時の意匠・構造等や工法・技法を検証し、それを採用しない部分について、史跡等の価値の理解促進や史跡等の保存・活用の効果と比較衡量すること ○再現に当たって史資料を収集するほか、検討プロセスについて記録に残し、公表すること また、以下事項について留意することが必要である。 【留意事項】 ○史跡等における歴史的建造物の再現に当たっては、史跡等の保存・活用との関係で、その効果を実際に理解してもらえるものでなければならない。 ○再現後も継続的に再現の効果を検証することが必要である。 ○往時の姿が不明確な部分等については、その旨を明示するとともに、再現に当たって採用した意匠・形態についての経緯・考証を明示すること。 ○史跡等の本質的価値の理解促進等を阻害するような、往時の機能からあまりにもかけ離れた便益機能を付加する場合は、本丸などの中心機能・史跡等の象徴的空間を避けること。 注「復元」においても、上記手順や留意事項に配慮することが必要である。 7 (5)適切な再現といえない再現について ○史跡等における歴史的建造物の再現については、史跡等の価値の理解の観点等から、以下のように再現を行うべきでない場合を明示する必要がある。 ・遺構が検出されないにも関わらず、推測により往時の歴史的建造物を再現する場合 ・意匠・形態等が全く分からないもの ・調査により意匠・形態等に関する史資料発見の可能性があるにも関わらず、その作業が明らかに不十分なもの ・史跡等の理解を妨げることに繋がる歴史的建造物の再現 ・もっぱら展望施設としての機能など、集客のみに着目した再現 等 遺跡全体の本質的価値の理解に資さない再現 ○なお、史跡等における再現は、史跡等の価値の理解を高める場合に行われることが望ましいため、史跡等の価値を減損するものであってはならないことは言うまでもなく、再現の検討に先立って、遺構への影響について検証しておくことが必要である。 《以下、再現、復元、復元的整備の内容と、適切な再現といえない再現について図示》 再現 (史跡全体の価値の理解に資する再現) 「復元」 往時の規模・構造・形式等を忠実に再現…現行の「復元基準」を引き続き維持 「復元的整備」(現行) 利活用の観点から、外観を忠実に再現しつつ内部の意匠・構造のみ一部変更して再現…現行の「復元基準」の「復元的整備」のほか ・往時の意匠・形態が一部不明確な場合 ・構造等について一部変更する場合 において再現を行う際には、 「歴史的建造物の再現案を多角的に検討できる体制や実施体制を整備すること」 「歴史的建造物の再現の検討ブロセスについて記録に残し、公表すること」 などの手順を踏む必要があるほか 「再現の効果が理解されるものであること」 「往時の姿が不明確な部分等については、その旨を明示するとともに、実際に再現した意匠・形態についての検討経緯・考証を分かるように明示すること」 などの留意事項を遵守することが必要 《上に向かう矢印上に赤字で記載》復元的整備の範囲について見直し《矢印上の文字終わり》 《赤点線囲み開始》往時の意匠・形態が一部不明確な場合 構造等について一部変更する場台《赤点線囲み終わり》 《点線で図を区切っている》 「適切な再現といえない再現」 (史跡全体の価値の理解に資さない再現) (例) ・意匠・形態が全く分からないもの ・調査により意匠・形態等に関する史資料発見の可能性がある にも関わらず、その作業が明らかに不十分なもの 《図示終わり》 8 4.再現された歴史的建造物について (1)再現された歴史的建造物の価値について 〇史跡等において再現された歴史的建造物は文化財保護法上直ちに文化財として扱われるわけではなく、史跡等の文化財に準じた、価値を伝えるための手段(プレゼンテーション)としての複製品(レプリカ)と捉えられる。 ○他方で、様々な再現が行われている中で、忠実性を追求し、再現される歴史的建造物の質が確保されるよう、適切に再現された歴史的建造物については、適切な評価を与えることが適当である。 (2)再現された歴史的建造物の評価の在り方について 〇歴史的建造物の再現には、質の確保が必要であり、このため、例えば、以下のような仕組みについて検討すべきである。 ・忠実性の軸では、優良な復元の取組について評価する仕組み(主体、評価軸等) ・利活用等の観点から再現された歴史的建造物について、再現後数年間が経過した後に評価する仕組み(主体、評価軸等) 9 《(参考資料26)史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準 》 史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準 令和2年4月17日 文化審議会文化財分科会決定 史跡等における歴史的建造物の復元等に関する基準について、以下のとおり定める。 I .復元 1.定義 「歴史的建造物の復元」とは、今は失われて原位置に存在しないが、史跡等の保存活用計画又は整備基本計画において当該史跡等の本質的価値を構成する要素として特定された歴史時代の建築物その他の工作物の遺跡(主として遺構。以下「遺跡」という。)に基づき、当時の規模(桁行・梁行等)・構造(基礎・屋根等)・形式(壁・窓等)等により、遺跡の直上に当該建築物その他の工作物を再現する行為をいう。 2.基準 歴史的建造物の復元が適当であるか否かは、具体的な復元の計画・設計の内容が次の各項目に合致するか否かにより、総合的に判断することとする。 (1)基本的事項 ア.当該史跡等の本質的価値の理解にとって有意義であること。 イ.当該史跡等の本質的価値を理解する上で不可欠の遺跡の保存に十分配慮したものであること。 ウ.復元以外の整備手法との比較衡量の結果、国民の当該史跡等の理解・活用にとって適切かつ積極的意味をもつと考えられること。 エ.保存活用計画又は整備基本計画において、当該史跡等の保存管理・整備活用に関する総合的な方向性が示され、歴史的建造物の復元について下記の観点から整理されていること。 1復元の対象とする歴史的建造物の遺跡が史跡等の本質的価値を構成する要素として特定されていること。 2当該史跡等の歴史的・自然的な風致・景観との整合性が示されていること 3復元後の管理の方針・方法が示されていること (2)技術的事項 ア.当該史跡等の本質的価値を構成する要素として特定された歴史時代における史資料の作成・残存状況等も踏まえ、次の各項目の資料により、復元する歴史的建造物が遺跡の位置・規模・構造・形式等について十分な根拠をもち、復元後の歴史的建造物が規模・構造・形式等において高い蓋然性をもつこと。 1発掘調査等による当該歴史的建造物の遺跡に関する資料等 2歴史的建造物が別位置に移築され現存している場合における当該建造物の調査資料 3歴史的建造物が失われる前の調査・修理に係る報告書・資料等 4歴史的建造物の指図・絵画・写真・模型・記録等で、精度が高く良質の資料(歴史的建造物が失われた時代・経緯等によって、復元に求めるべき資料の精度・質に違いがあることを考慮することが必要) 5歴史的建造物の構造・形式等の蓋然性を高める上で有効な現存する同時期・同種の建造物、又は現存しない同時期・同種の建造物の指図・絵画・写真・模型・記録等の資料 イ.原則として、復元に用いる材料・エ法は同時代のものを踏襲し、かつ当該史跡等の所在する地方の特性等を反映していること。 (3)配慮事項 ア.歴史的建造物の構造及び設置後の管理の観点から、防災上の安全性を確保すること。 注:防火対策については「国宝・重要文化財(建造物)等の防火対策ガイドライン」に基づいて対策を講じること イ.復元のための調査の内容、復元の根拠、経緯等を報告書により公開するとともに、その概要を復元後の歴史的建造物の内部又はその周辺に掲出し、それぞれについて文化庁に報告すること。特に復元に係る調査研究の過程で複数の案があった場合には、他の案の内容、当該案の選択に係る検討の内容、復元の内容等を必ず記録に残し、正確な情報提供に支障が生じないようにすること。 U.復元的整備 1.定義 今は失われて原位置に存在しないが、史跡等の保存活用計画又は整備基本計画において当該史跡等の本質的価値を構成する要素として特定された歴史時代の建築物その他の工作物を遺跡の直上に次のいずれかにより再現する行為を「歴史的建造物の復元的整備」という。 ア.史跡等の本質的価値の理解促進など、史跡等の利活用の観点等から、規模、材料、内部・外部の意匠・構造等の一部を変更して再現することで、史跡等全体の保存及び活用を推進する行為 イ.往時の歴史的建造物の規模、材料、内部・外部の意匠・構造等の一部について、学術的な調査を尽くしても史資料が十分に揃わない場合に、それらを多角的に検証して再現することで、史跡等全体の保存及び活用を推進する行為 2.基準 「歴史的建造物の復元的整備」は、I . 2.(I)の基本的事項及び(3)の配慮事項を準用するほか、以下の手順及び留意事項を遵守しながら行い、史跡等の保存及び活用に寄与するものであると認められるものでなければならない。 (1)手順 ア.保存活用計画又は整備基本計画において、当該史跡等の保存管理・整備活用に関する総合的な方向性が示され、歴史的建造物の復元的整備について以下の観点から整理されていること。 1復元的整備の対象とする歴史的建造物が史跡等の本質的価値を構成する要素として特定されていること 2史跡等の本質的価値の理解促進を含む復元的整備の目的及び効果が合理的かつ史跡全体の保存・活用の推進に寄与するものであり、それらが明確に示されていること 3 2の目的及び効果を実現するための具体的な復元的整備案が示されていること 4当該史跡等の歴史的・自然的な風致・景観との整合性が示されていること 5復元的整備後の管理の方針・方法及び活用方策が示されており、2の目的及び効果と整合がとれていること イ.当該史跡等の本質的価値を理解するうえで不可欠の遺跡の保存に十分配慮したものであること ウ.復元的整備を行う歴史的建造物について、考古、文献や建造物などの分野の専門家も含め、具体的な規模・構造・形式等を多角的に検証・実施できる体制を整備し、検討を行い、関係者間において合意が形成されていること エ.I . 2. (2)技術的事項に沿って往時の規模・構造・形式等や材料・エ法を検証し、それを採用しない部分については、史跡等の理解促進や史跡等の保存・活用の効果と比較衡量すること (2)留意事項 ア.往時の意匠・構造等が不明確な部分や利活用の観点から一部構造等を変更した構造部については、その旨を明示すること イ.往時の意匠・構造等が不明確な部分や利活用の観点から一部構造等を変更した部分については、再現に当たって採用した意匠・構造について、その経緯及び考証を明示すること ウ.復元的整備を行う歴史的建造物は、史跡等の学術的な理解の促進に資するものであることから、復元的整備された歴史的建造物に付加する便益施設については、その機能や面積に応じて重要箇所(例えば、城跡における本丸等枢要箇所)を避けるなど配慮すること エ.復元的整備後には、ア.又はイ.の実施について文化庁に報告を行うとともに、継続的に復7E的整備の効果を検証し、報告を行うこと V.その他 地方指定や未指定の遺跡等において、歴史的建造物の再現を行う湯合についても、本基準を参酌しつつ、史跡等における歴史的建造物の復元の取扱いに関する専門委員会の指導・助言を受けることができる。 《(参考資料27)木造天守バリアフリーの今後の検討について》 《下線開始》木造天守バリアフリーの今後の検討について《下線終わり》 R 5.1 《下線開始》◎市長の「公募で選定した昇降機の設置は1、2階まで」との発言に対する対応《下線終わり》 《囲み開始》 ◎昇降技術の公募は、下記方針(以下、「付加設備の方針」)に基づき実施。 《下線開始》「木造天守間の昇降に関する付加設備の方針」(平成30年5月30日公表)《下線終わり》 →「付加設備の方針」の“5.基本方針”に下記が示されている。 “電動か否かによらず、車いすの方が見ることのできる眺望としては、現状1階フロアまでだが、様々な工夫により、可能な限り上層階まで昇ることができるよう目指し、現状よりも天守間のすばらしさや眺望を楽しめることを保証する。”《囲み終わり》 ・「市長発言」と「付加設備の方針」に差異が発生している。バリアフリーの在り方について、あらためて検討するため、現段階での課題を整理した。 《下線開始》☆現段階での課題《下線終わり》 〇令和4年12月の昇降技術の公募の結果を公表後、選定した昇降装置の設置を容認する意見と反対する意見が寄せられている。 →《下線開始》これらの意見をしっかり検証し、公募で最優秀者を選定した現状を踏まえ「付加設備の方針」を見直すことなく対応する必要がある。《下線終わり》 〇江戸期の姿のままに復元するのか、特別史跡としての本質的価値の向上と更なる理解促進のために復元するのか、市民への理解か進んでいない →《下線開始》本市の木造復元の目的をしっかり市民に伝えていく必要がある。《下線終わり》 《囲み開始》◎上記課題を解決するため、市民に対し“なぜ木造で天守を復元するのか”の本市の目的を正しく伝えるとともに、今一度、市民との対話を重ねた上で、パリアフリーの方針を策定する必要がある。《囲み終わり》 〇《下線開始》木造天守のバリアフリーの方針を策定するための留意事項《下線終わり》 ・公募で選定した昇降装置の技術開発状況(何階まで可能か等の技術的限界) ・観覧や避難経路など動線計画(人命最優先) →史実に基づいた復元の「真実性」と、特別史跡の本質的価値を来訪者が体感・理解 できる「活用性」を両立 〇《下線開始》今後の進め方について《下線終わり》 1)公募の結果公表後(12/5所管事務調査以降)の状況を議会に説明 2)パリアフリーについて、木造で復元する本市の目的を正しく伝えるとともに、公開で市民との苅話を行う。 “木造天守のバリアフリーの方針を策定するだめの留意事項”を踏まえ、有識者会議で議論 ・公募で選定した昇降技術を何階まで設置するかを決定 ・“可能なかぎり上層階まで・ ・ ・”のため、公募で選定した昇降技術を設置しないフロアのバリアフリーをどうするか検討 4)関係団体(障害者回体、高齢者回体等)との調整 5)議会へ報告、了承 6)木造天守のバリアフリーの方針を策定、整備基本計画に反映 7)文化庁へ提出 【想定リスク】 ・市民との対話のだめの方策の検討及び市民との対話に約1年、天守全体のバリアフリーの方針の検討に約1年必要となり、現在より約2年程度は検討期間となる(現在の想定としてR7年度前後)。 ・本来であれば「市民意見の聴取は公募実施前に行うべき」との議会からの厳しい指摘が想定される。 ・公募で選定した昇降技術の開発はR5からR8年度を想定しているため、確実に何階まで行けるかは、実現可能な見込がだっだとき(R7年度を想定)となる。 ・整備基本計画へのバリアフリーの方針の反映が、早くてR7年度前後となり、文化庁への提出がかなり遅れる。 ・文化庁への提出が遅れることにより、今後、毎年発生する木材保管料についての責任追求が想定される。 ↓ 《囲み開始》◎市民との対話のための方策の検討からバリアフリーの方針の検討までに約2年程度必要のため、パリアフリーの方針の策定および整備基本計画の文化庁への提出は現市長の任期後となる。《囲み終わり》 《(参考資料28)名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会に係る検証報告書(21頁抜すい) 》 【名古屋城天守閣木造復元市民向け説明会に係る検証報告書(抜すい)】 て聞かれたら対応するために職員を近くに配置していた。 開催の趣旨を考慮し、終了時間になったからといって直ちに発言を打ち切らないなどの配慮もしている。 元《元号がないが令和元年の意》 働きかけ等の有無 ・市民の疑念をいだかせるようなことは一切ない。そういうような話があれば当然止める。 ・特定の方への参加の呼びかけであるとか、発言の依頼などは、記憶の中では一切ない。 ・特に誰かを呼ぶとかはなく、上司からそういう参加者の方に関する指示はなかった。周りについても、事前に誰かを呼ぶとか声がけをするとかは聞いたことはない。 経緯及び概要 ・6月定例会で議案を撤回するという事態があって、議会からも幅広く市民の意見を聞きながら、議会とよく相談をしてやらなければならないと言われていた。急遽開催回数を増やしたり会場を設けたりしていたので準備に精一杯だったが、できるだけ幅広く意見を聞きたいというのは市長も同じ気持ちだったと思う。 参加者 ・出席する人数が少なく、どうすれば幅広い意見が聞けるかは考えていた。賛成派に呼びかけるようなことはしないが、本当に適切な説明会になっているかは常に自問自答していた。 ・賛成派、反対派それぞれがグループで来ていたので、だれかが働きかけて呼んだという認識はなかった。 ・それぞれ賛成派、反対派がひたすらそれぞれの主張を述べる会で、もう少し建設的にやれないものかと思っていたが、何人かの方はご自身の素直な感情を言われて、それは参考になった。 ・会場に有識者Fが来ており、一個人、市民の一人というわけでもなく話をされた。多分こちらから来てもらっているのだけれど、市民の方からするとどう見えたのかなという不安はあった。 《赤線囲み開始》・当時、障害者団体の方々に、市民向け説明会は賛成派の方の参加が多いと説明していたことから、団体の代表者は「我々が行って、エレベーターをつけろ!と言ったら、えらいことになるわな」と参加を躊躇していたので、そのようなことがあれば、きちんと制止しますよと述べた。結局、団体の方は手を挙げて発言することはなかったが、会場で声を掛けると「恐る恐るだけど来たぞ」とやり取りをした記憶かある。障害者団体としては近寄りにくかったかもしれない。《赤線囲み終わり》 -21-