令和5年8月23日 名古屋市長   河村 たかし 様 名古屋市障害者施策推進協議会 会長 瀧 誠   名古屋城バリアフリーに関する市民討論会に対する意見書 日頃より市長始め、職員、市議会議員の方々のご努力により、様々な障害者施策を推進いただいていることに感謝申し上げます。 しかし、6月3日に開催されました名古屋城バリアフリーに関する市民討論会において障害のある方に対して複数の参加者より差別発言がなされるとともにそれを支持する反応があっても、職員がその場で発言を制止するなどの必要な対応をとることなく進行し、さらに市長による討論の展開を肯定するあいさつにより最後まで障害者差別を正すことなどの対応がされることなく閉会することとなったこと委員一同大変なショックと、怒りを感じております。特に参加していた障害当事者の心痛を察すると言葉になりません。 本協議会としては、市の施策展開過程での出来事であり放置することはできません。よって以下のように意見を申し上げます。 記 1.検証委員会において以下の事柄を検証いただきたい。 1)市民討論会開催の適切性 本協議会委員及び委員が所属する団体は名古屋城木造天守の整備事業の計画段階より、担当部署と7年にも及ぶ様々な意見交換、整備に向けた提案を行ってきました。エレベーター設置は基本としながらも、文化的価値、その実現性に配慮しそれぞれ立場見解を持ち、関わりを持ってきました。 しかし、すべての委員が今回の事態は偶発的に起きたのではなく、起こるべくして起きたのではないかと感じています。5年前に付加設備の方針を打ち出し、国際コンペを実施し、その実行に向けて障害者団体等とも話し合いながら進め、一定の方針がでたところで、市民アンケート、討論会という運びは、流れを後戻りさせていると感じる委員が大多数です。 また実施されたアンケートも無作為抽出という形態がとられており、多くの市民の意見を聞くことになっても、市民に占める割合が少数である障害者の意見が反映されるものではないといえます。 そして市民の声をフラットに聞く場として想定されていた場は、意見陳述会ではなく討論会として設定されていました。討論とは、それぞれの立場で、ある事柄について意見を出し合って議論をたたかわせることです。ゆえに参加する人たちはそれぞれの立場で準備し、たたかうことになります。ヒートアップすることがここからも想定されます。そのような場が必要であったのか、この会の意図、目的、あり方についてご検証ください。 2)会の企画及びその準備体制 討論会であるがゆえの準備が十分になされていたか問題です。それにあたってどのような会とするため、どのようなシナリオを描き、開催されたか検証される必要があります。またこの企画のテーマからも市役所内での横断的準備がなされていて当然だったかと考えます。横断的準備がどのようになされたか検証を求めます。 3)その後の差別発言の存在とそれに対する市長・職員の対応 討論会当日の市長の発言、直後の市長会見での「差別的発言」「表現の自由」に関する市長の見解には「名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例(以下「障害者差別解消推進条例」という。)」施行者として適格性を欠くとの意見が委員の中から多数出ました。表現の自由はあっても差別発言は許されるべきではありません。また現在においても市長会見の場から市長と職員の間では見解を異にしている状況が続いていることが伺われます。検証委員会においてはこれらの構図について検証するとともに事後の対応についても検証していただきたい。それを受け今一度市長におかれましては障害者差別解消推進条例施行者として自身の認識を高めていただきたい。 並びに当日は多くの役職者、各部署の職員が同席していた事実が確認されております。この会に参加するにあたっての参加職員の認識、及びその場面及び場面経過でそれぞれの職員がどう感じ、なぜ動けなかったのか今後のために検証ください。 2.検証委員会の検証を受けるとともに名古屋市として再発防止方針を明確にしていただきたい。 1)「障害を理由とする差別の解消の推進に関する名古屋市職員対応要領(以下「対応要領」という。)」の職員に対する徹底 2)検証を受け、その上での対応要領の見直しとその徹底 3)名古屋市行政を相手とした差別に関わる紛争に対する対応策の再検討と具現化 3.再建する名古屋城天守のバリアフリーの推進は市の責務であるという視点に立って取り組んでいただきたい。 本協議会は平成30年4月20日河村市長あて「名古屋城木造復元天守閣のバリアフリー対策について」において、復元される名古屋城木造天守が、国内外の誰もが安心して、気軽に楽しめるものとなり、真に名古屋市民の誇りとなるよう、バリアフリー対策について、当事者の方々と十分意見交換を行いながら、検討をすすめていただくよう要望しております。この方向性は今も変わっておりませんし、それに応えるべくここまでの5年間の市職員の方々の細部のご努力は肌で感じております。 しかし、前述したように今回のアンケートの実施、討論会の開催及び開催前の過程においては、今までの過程で共有してきた「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」や「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下「バリアフリー法」という。)」等の基本的視点に欠けるとともに、当事者の方々との関係性を損ねる状況になっていると考えざるをえない事象が多々あったと協議会での委員発言に多数ありました。 バリアフリー対策は、高齢者、障害者等にとって日常生活又は社会生活を営む上での障壁の除去、年齢、障害の有無その他の事情によって分け隔てられることなく共生する社会の実現のための対策です。バリアフリー法において地方自治体には必要な措置を講ずる努力義務を課しています。また市長が施行者である障害者差別解消推進条例では、障害の有無にかかわらず誰もが実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者(障害者が意思の表明を行うことが困難である場合にあっては、その家族等)の求めに応じて、必要かつ適切な現状の変更又は調整を行うこと(合理的配慮)に対する措置を講ずることを市の責務としています。 これらからするとバリアフリー対策を推進するか否かを市民に問うものではなく、積極的なバリアフリー対策を示し、市民に発信していくことが市の役割と考えます。 今一度、バリアフリーとは何か、合理的配慮とはどのようなことかをご確認いただき、名古屋城天守の再建に取り組んでいただきたい。 おわりに 名古屋市の施策展開においては法令、条例を遵守するとともに、「障害のある人もない人もお互いに人格と個性を尊重し合いながら共に生きる地域社会の実現」に向けて障害者施策を着実に推進することをお願い申し上げます。 また名古屋市の障害者施策の歴史は、名古屋市及び障害当事者及びその関係者、そして市民との対話の中で多様性を認め合い形成されてきました。名古屋城天守再建に係る問題で、今までの関係性を崩す「市長対障害者」「市民対障害者」といった構図にならないよう、市長には施策促進者としてリーダーシップを図っていただきたくお願い申し上げます。