7ページ 第2章 名古屋を取り巻く状況 1 名古屋の概況 この章では、計画の前提として、名古屋の位置や地勢、縄文時代から現代に至るまでのなりたち、名古屋の強みを示します。 (1)位置・地勢 名古屋は、伊勢湾の湾奥部に面し、木曽三川により形成された広大な濃尾平野の東に位置しており、木曽三川流域の豊かな自然の恵みを享受しながら市民生活や都市活動が営まれています。 また、日本のほぼ中央に位置し、東京からは約260キロメートル、大阪からは約140キロメートルの距離にあり、鉄道や幹線道路の結節点として東西交通の要衝となっています。そして、国内有数の国際貿易港である名古屋港を抱え、伊勢湾には名古屋港のほか四日市港などの大規模な貿易港があり、伊勢湾沿岸部にはコンビナート、工場、倉庫などが集積しており、経済や海上物流の一大交易圏となっています。さらに、空の玄関である中部国際空港は本市の南約40キロメートルの位置にあります。 このように、人の移動、物流、産業立地など地理的に恵まれた条件を数多く備えています。 本市の市域面積は約326.5平方キロメートルで、東部の丘陵地、中央部の台地、北・西・南部の沖積平野の3つに大きく分けられ、東に高く西に低い地勢をなすものの、おおむね平坦な地形となっています。 東部の丘陵地には東山公園をはじめとする広大な公園や樹林地が分布していますが、宅地開発による市街化が進んでいます。中央部の台地は北縁の名古屋城から南は熱田神宮の辺りまで連なり、堀川が台地の西縁に沿って流れており、古くから市街地が形成されています。北・西・南部の沖積平野には庄内川を軸に平坦な土地が広がっています。南西部は、干拓によって造成され農地として発展しましたが、人口増加とともに近年は市街化が進んでいます。また、埋め立てにより造成された名古屋港は、臨海部付近の工業地帯とともに中京工業地帯の一角をなしています。 本市の気候は、夏の平均湿度が70%を超すことが多くむし暑く、冬は「伊吹おろし」と呼ばれる冷たい北西の季節風が吹き、季節により厳しい面もありますが、比較的穏やかな気候とされています。 8ページ 名古屋市の位置、地形図を掲載 9ページから10ページ (2)名古屋のなりたち ①尾張氏の台頭・「なごや」のはじまり 縄文時代の海面上昇(縄文海進、約6,000~6,500 年前)により、本市付近の海面は現在より2メートル前後高かったといわれ、南西部は海となっており、現在の名古屋城や都心周辺は海岸に面していました。ここに生きた人々のさまざまな営みが各所に残る貝塚や遺跡から確認されており、歴史的価値の高い土器なども多く出土しています。古代には「尾張氏」が東海地方最大の豪族として台頭し、東海地方最大の前方後円墳であるだんぷさん古墳やくさなぎの剣をまつった熱田社がつくられ、社を核に熱田のまちが発展していきました。 ②名古屋城築城・「名古屋の文化」の礎を築く 戦国時代になると、東西の要衝の地であった尾張は織田信長、豊臣秀吉、前田利家など多くの戦国武将を生み出し、名古屋周辺は天下統一の舞台となりました。江戸幕府を開いた徳川家康は、慶長15(1610)年に名古屋台地の北西端に日本最大級の近世城郭である名古屋城の築城を開始し、当時尾張の中心であった清須城下町を名古屋へ移しました(清須越)。さらに、名古屋城築城と時期を同じくして堀川が開削され、船による物資の大量輸送が可能となりました。このようにして生まれた名古屋のまちは、江戸時代には御三家筆頭である尾張藩の城下町として発展し、歴代藩主の治世により、名古屋の文化の礎が築かれていきました。 ②名古屋市制の施行 明治時代になると、名古屋駅の開業と市制施行(明治22(1889)年)を契機に鉄道駅とまちを結ぶ幹線道路、路面電車、電気、水道、下水道、ガスの整備が始まり、大正・昭和の時代にかけて基礎的な都市の基盤が整いました。昭和12(1937)年には名古屋汎太平洋平和博覧会を開催し、来場者総数480万人を集めるなど、名実ともに産業文化都市として発展していきました。市域は旧城下町を中心とした当初の区域(約13.3平方キロメートル)から、大正・昭和の時代に合併を重ねて段階的に拡張し、ほぼ現市域(約326.5平方キロメートル)になりました。市制施行時には約16万人であった人口も、昭和9(1934)年に100万人を、昭和44(1969)年には200万人を超えました。 ③戦災からの復興、伊勢湾台風などの災害を教訓としたまちづくり 第2次世界大戦の戦災により市域の約4分の1を焼失し、名古屋城天守閣をはじめ貴重な文化財を失いましたが、いち早く戦災復興計画を立案し、100メートル道路の敷設や市内の墓地を平和公園に集団移転するなどの大胆な都市計画を実現しました。また、台風による被害としては最大の犠牲者をもたらした伊勢湾台風などの災害を教訓としたまちづくりや地下鉄、高速道路に加え名古屋駅周辺の再開発などの都市基盤整備が計画的に進められ、大都市としてさらなる成長を続けています。 ④ものづくり産業を中心とした産業の発展 産業面では、木曽ヒノキを代表とする豊富で良質な木材を尾張藩が管理していたことから、この地域において木材産業が発達し、それに携わる職人の高度な技術は、明治以降、時計、鉄道車両、航空機産業に発展していきました。また、焼き物に適した土があることなどから窯業が盛んとなり、近代的な陶磁器産業へと成長し、ファインセラミックス産業へと発展を遂げました。さらに、江戸時代の綿織物業を継承する繊維産業の隆盛により織機工業が発展し、その後自動車産業が誕生しました。現在では、本市を中心とした名古屋大都市圏は、多くの産業が集積する日本のものづくり産業の中核となっています。 ⑤国際的な交流の舞台に 市制施行100周年にあたる平成元(1989)年には、「デザイン都市宣言」を行うとともに世界デザイン博覧会を開催し、デザインを単なる装飾や意匠に留めることなく、生活文化のひとつとして、まちづくりに活かしてきました。 近年では、平成17(2005)年に「自然の叡智」をテーマとして121か国と4つの国際機関が参加した2005年日本国際博覧会(あい・ちきゅうはく)、平成22(2010)年に生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)、平成26(2014)年に持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議、令和元(2019)年に金融・世界経済に関する首脳会合(G20)愛知・名古屋外務大臣会合、令和5(2023)年に第24回日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM24)が開催されました。さらに令和8(2026)年には、アジア・アジアパラ競技大会の開催が予定されており、国際的な交流の舞台になっています。 このような歴史の中で、本市は圏域の経済・社会・文化の中枢都市として愛知県、近隣市町村をはじめとする圏域の自治体と相互に連携・協力し合いながら発展を遂げてきました。今後はリニア中央新幹線の開業が予定され、さらなる発展を続けていきます。 脚注 名古屋大都市圏:名古屋市を中心におおむね30~50キロメートルの範囲で、産業、観光、防災など分野ごとに柔軟に捉えたエリア。 COP10:生物多様性の保全と持続可能な利用等を目的とした生物多様性条約の第10回の締約国会議で、平成22(2010)年10月に本市で開催された。 ESD:Education for Sustainable Developmentの略。一人ひとりが世界の人々や将来世代、環境との関係性の中で生きていることを認識し、持続可能な社会の実現に向けて行動を変革するための教育。 TEMM:Tripartite Environment Ministers Meetingの略。北東アジアの地域及び地球規模の環境問題に関して、日中韓の大臣間で率直な意見交換を行う場として、平成11(1999)年から開催。 11ページから12ページ (3)名古屋の強み 名古屋の位置・地勢、なりたちなどから、名古屋の強みを捉えます。 ①空間的・時間的ゆとりがあり、子育てしやすく、便利で快適な住みやすい都市 本市は、日本有数の大都市として、都市機能が高度に集積するとともに、住環境においては、整然とした道路や公園が確保され、ゆとりある生活空間を備えており、大都市でありながら通勤時間が比較的短いなど、時間的にもゆとりのある都市です。 また、小学校や公園も住まいの近くにあるところが多いなど、子育て環境・教育環境が整っています。加えて、安心・安全でおいしい水道水や充実した医療サービス、公共交通機関など、生活における便利さ、快適さにおいても市民の満足度は高くなっているなど、住みやすい都市となっています。 ②世界レベルの産業技術や商業・サービス業が集積するなど、大都市ならではの強い経済力がある都市 名古屋大都市圏は、自動車のみならず航空機、ロボット、精密機器、工作機械、ファインセラミックスなどの分野において、世界レベルの産業技術が集積しています。また、本市には、大都市ならではの商業・サービス業の厚い集積があり、強い経済力に裏づけられた安定的な雇用があります。さらには、スタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」に選定されるなど、イノベーション創出に向けた土壌がつくられています。 ③高等教育機関の集積により地域が活性化されている都市 本市は、日本有数の大学の集積地であり、市内の大学からノーベル賞受賞者を多く輩出しており、また、多くの大学発スタートアップが誕生するなど、高等教育機関が充実し、社会に活かされています。そのため、市内外から通学する学生が学び活躍できる環境が整っており、地域活性化につながっています。 ④鉄道・高速道路・空港・港の広域的な交流ネットワークの中心であり拠点性を有する都市 名古屋大都市圏は、日本のほぼ中央に位置し、新幹線をはじめとする鉄道網や高速道路網が形成され、世界とつながる空港や港を擁しており、広域的な交流ネットワークの中心として交通・流通の要衝となっています。また、リニア中央新幹線の開業により、本市の拠点性はさらに向上することが期待されます。 ⑤豊かな文化を有し、スポーツを楽しめる都市 徳川家康が慶長15(1610)年に名古屋城の築城を開始して以来、この地域の拠点として発展してきました。その中で、ものづくり文化や武家文化、芸どころ名古屋を育んだ多彩な伝統芸能などの豊かな文化が育まれ、さらに近年では、なごやめし、ポップカルチャーなど独特な文化も新たに生まれてきており、名古屋の魅力につながっています。 また、本市に本拠地を置くトップスポーツチームも多く、スポーツを楽しむことができる都市です。さらには、アジア・アジアパラ競技大会の開催も予定されており、より一層スポーツに対する機運が高まることが期待されます。 ⑥市民・多様な民間主体・行政が一丸となって課題に対応する力がある都市 平成11(1999)年2月の「ごみ非常事態宣言」を契機に、市民との協働によって、ごみ処理量の大幅な減少を達成しました。令和2(2020)年以降に新型コロナウイルス感染症が急拡大した際にも、エッセンシャルワーカーをはじめ、市民・事業者・行政など、あらゆる主体が一丸となり、オール名古屋で感染拡大防止や市民生活・経済活動の正常化に向けた取り組みを進めました。 また、企業や大学、NPOなどの多様な民間主体と行政が、課題解決に資する新たな価値を創出するため、公民連携の取り組みを進めています。このように、市民・多様な民間主体・行政が一丸となって課題に対応していく力を持っています。 脚注 スタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」:内閣府が、我が国の強みである優れた人材、研究開発力、企業活動、資金等を活かした世界に伍する日本型のスタートアップ・エコシステム拠点の形成をめざし、地方自治体、大学、民間組織等が策定した拠点形成計画を選定するもの。 エッセンシャルワーカー:医療従事者など生活の維持や社会基盤を支える職種で働く人。 13ページ 2 本市を取り巻く社会経済情勢と課題 (1)人口減少、少子化・高齢化に伴う人口構造の変化 ①本市の常住人口の推移 日本の常住人口は平成20(2008)年をピークに減少に転じていますが、本市の常住人口は、令和2(2020)年まで24年連続で増加していました。しかしながら、令和3(2021)年に減少に転じ、2年連続で減少しました。令和5(2023)年に再び増加し、令和5(2023)年10月1日現在の常住人口は、2,326,683人となっています。 ※本市の常住人口の推移のグラフを掲載 14ページ ②自然動態(出生・死亡) 出生数は平成15(2003)年頃から2万人前後で推移していましたが、近年減少傾向にあり、令和5(2023)年の出生数は16,615人となっています。 一方、令和5(2023)年の死亡数は26,144人であり、自然増減数※は9,529人の自然減となりました。高齢化の進行などから死亡数が増加傾向にあり、平成25(2013)年から自然減が年々拡大してきています。 平均寿命が延びていることもあり、今後、少子化・高齢化がさらに進んでいくことが見込まれます。 ※「本市の出生数、死亡数及び自然増減数の推移のグラフ」、「本市・全国の合計特殊出生率の推移」のグラフを掲載 脚注 自然増減数:自然増減数は、「出生数-死亡数」により求める。出生数が死亡数より多いとき「自然増」、またその逆を「自然減」という。 15ページから16ページ ③少子化をめぐる現状 少子化の要因としてさまざまなことが挙げられていますが、国の少子化社会対策大綱では、「未婚化・晩婚化と、有配偶出生率の低下であり、特に未婚化・晩婚化の影響が大きいと言われている」としています。 積極的に結婚したいと思わない理由については、価値観によるもののほか、経済的理由やキャリアプランに関する面などさまざまで、男女間でも差があります。 理想の数の子どもを実際には持たない理由については、「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という理由を挙げた人が最も多く、経済的理由により希望がかなわない状況があります。 本市においても、令和3(2021)年度以降、理想の子どもの数は2.16人程度である一方で、現在及び予定の子どもの数を合わせると、1.63人程度となっており、国と同様に差が生じています。 ※「積極的に結婚したいと思わない理由」、「夫婦が理想の数の子どもを持たない理由」、「本市における平均理想子ども数と平均予定子ども数の推移」のグラフを掲載 17ページ ④社会動態(転入・転出) 令和5(2023)年の転入数は167,820人、転出数は157,386人であり、社会増減数※は10,434人の社会増となりました。 令和3(2021)年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う国外からの転入超過の大幅な縮小により、社会増が大きく縮小しましたが、令和4(2022)年には国外からの転入超過が再び拡大したことにより、社会増も拡大しました。 また、地域別の社会動態を見ると、関東への社会減が続いています。 ※「本市の転入数、転出数及び社会増減数の推移」、「本市の地域別社会増減数」のグラフを掲載 脚注 社会増減数:社会増減数は、「転入数-転出数」により求める。転入数が転出数より多いとき「社会増」、またその逆を「社会減」といい、それぞれ「転入超過」、「転出超過」ともいう。 18ページから20ページ ⑤今後の見通し 社会動態については、社会経済状況などにも左右されますが、令和4(2022)年以降、社会増が再び拡大していることからも、転入超過はしばらく続くものと見込まれます。自然動態については、自然減が今後も拡大していくことが予測されます。 このような状況のもとで、本市の常住人口は、令和2(2020)年の2,332,176人をピークとして、減少傾向が続くと推計しています。 ※「本市の常住人口の推移と推計」のグラフを掲載 昼間人口についても、令和2(2020)年頃から既に減少に転じていると推計しています。 ※「本市の昼間人口の推移と推計」のグラフを掲載 脚注 昼間人口:ある市町村の常住人口に、その市町村への流入人口と、その市町村からの流出人口を加減して算出した人口。 人口構造については、年少人口(0~14歳)及び生産年齢人口(15~64歳)が減少する一方で、高齢者人口(65歳以上)が増加すると推計しています。令和4(2022)年に団塊の世代が75歳を迎え始めることにより、75歳以上の人口は令和10(2028)年頃にかけて大きく増加すると推計しています。 ※「本市の年齢構成別人口の推移と推計」のグラフを掲載 世帯数については、しばらくは増加が続くと推計しています。家族類型別にみると、高齢夫婦世帯、高齢単身世帯は今後も増加していくと推計しています。 ※「本市の世帯数の推移と推計」、「本市の世帯の家族類型別一般世帯数の推移と推計」のグラフを掲載 本市は近い将来、本格的な人口減少局面を迎えることが見込まれます。 人口減少及び少子化・高齢化に伴う人口構造の変化のもとで、医療や介護ニーズは増大し、また福祉ニーズが多様化していくことにより社会の支え手の負担の増加が懸念されるとともに、出生数の減少や働く世代を中心とした関東への転出超過などによる本市の生産年齢人口の減少に伴う経済活力の低下が懸念されます。 そのため、デジタル活用により生産性向上を図るとともに、子ども・若者の育成、子どもを生み、育てたいと希望する誰もが、安心して子育てできる環境づくり、高齢者が自分らしくいきいきと暮らすことのできる社会づくり、若い世代が魅力を感じるような雇用の創出などにより、社会の支え手を増やし、性別や年齢、障害の有無、国籍などに関わらず、全世代で支え合える社会をつくることが必要です。 21ページから22ページ (2)社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)の要請 単身世帯や単身高齢者の増加、地域コミュニティの機能低下、情報通信社会の急速な進展、また非正規雇用労働者の増加など、家族のあり方及び地域社会や生活環境・雇用環境が変化してきています。このような中、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、孤独・孤立の問題が顕在化してきています。 そのため、望まない孤独・孤立を予防する取り組みや、人と人とのつながりを実感できるような地域づくりを進めていく必要があります。 令和3(2021)年に東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されたことにより国内での障害や障害者への理解が深まったこともあり、障害の有無や性別、年齢、国籍などに関わらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をあらかじめデザインするという考え方であるユニバーサルデザインへの意識が高まっています。 また、本市の在留外国人数は、新型コロナウイルス感染症の影響で一時減少したものの、長期的には増加傾向にあります。加えて、本市においても令和4(2022)年11月に名古屋市ファミリーシップ制度を導入するなど、全国的に性の多様性に関する理解の増進に向けた取り組みが進められています。 そのため、アジア・アジアパラ競技大会の開催都市として、バリアフリー・ユニバーサルデザインのまちづくりや障害・障害者への理解をより一層促進することをはじめ、多様性(ダイバーシティ)を尊重し、誰もが安心して生活し、地域で支え合いながら活躍できるような、誰一人取り残さない社会づくりを進めていくことが必要です。 ※「本市における町内会推計加入率の推移」、「年齢階級別にみた孤独を感じる人の割合」、「本市における障害者手帳所持者数の推移と割合」のグラフを掲載 脚注 名古屋市ファミリーシップ制度:互いを人生のパートナーとし、日常生活において、対等な立場で継続的な共同生活を行っているまたは行うことを約した二人が市に宣誓し、市が宣誓書受領証等を交付することに加え、二人のほかに、生計を同一とする子どもがいる場合で、希望する場合は、宣誓書受領証等に子どもの名前を記載できる制度。 23ページから24ページ (3)持続可能な社会に対する機運の向上 持続可能な開発目標(SDGs)は、経済・社会・環境の3つの側面のバランスが取れた社会をめざす世界共通の目標として掲げられており、国内でも浸透してきています。本市は令和元(2019)年7月にSDGs未来都市に選定され、「誰一人取り残さない」持続可能なまちづくりに向けた取り組みを進めているところです。 企業活動においては、経済面から社会面へのシフトとしてESG投資が増えてきており、世界的な潮流となりつつあります。また、社会課題の解決に向けて、民間企業等と連携して施策を進める自治体が近年増えています。 また、令和4(2022)年12月に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)において「こんめい・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、令和12(2030)年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30目標」が主要な目標のひとつとして定められるなど、生物多様性の考え方が重要視されてきています。 加えて、生産から廃棄に至る一方通行型の社会経済活動から、生産・販売ロスの削減やアップサイクルによる再利用の取り組みなど、持続可能な形で資源を利用する循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行をめざすことが求められています。 都市の持続可能性については、全国で公共施設やマンションをはじめとする民間建築物が高経年化するなど、都市のストックの老朽化が懸念されています。本市の庁舎や市民利用施設・学校・市営住宅、道路・河川・公園、上下水道施設、交通事業施設などさまざまな公共施設においても、整備からの経過年数の増加に伴い、維持管理・更新等の需要が増加することが見込まれており、施設の長寿命化や集約化、有効活用を図るなどのアセットマネジメントの取り組みが求められています。 そのため、民間の資金・ノウハウも活用しながら、引き続きSDGsの達成に向けた取り組みを進め、持続可能で強靱な都市を構築していくことが必要です。 ※「全国におけるSDGsやエシカル消費に関する興味や取り組み状況」、「日本のSDGs債発行額の推移」、「本市における家庭から出るごみと資源の分別状況」、「本市における市設建築物の建設年度別保有資産量」のグラフを記載 脚注 SDGs未来都市:SDGs の達成に向けた優れた取り組みを提案する都市として国が選定するものであり、本市は令和元(2019)年7月に選定を受けた。(令和5(2023)年5月現在、182都市が選定) ESG投資:定量的な財務情報に加え、非財務情報である環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を考慮した投資。 アップサイクル:単なる再使用や素材の原料化ではなく、もともとの素材の特徴を活かしつつ、元の製品よりも次元・価値の高いモノを生み出すこと。 SDGs債:主に調達資金がSDGsに貢献する事業に充当される債券であり、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サスティナビリティボンドなどがある。 25ページから26ページ (4)価値観の多様化 社会状況の変化に伴い人々の価値観は多様化してきており、モノ消費からコト消費への志向の移行、シェアリング・エコノミーやサブスクリプションなどの「利用」を通じて価値を得るサービスの普及などもみられています。また、令和3(2021)年に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)において、幸福度中心の社会への転換が提唱されました。我が国においても、デジタルの活用に加え心豊かな暮らしの実現にも視点を置いたデジタル田園都市国家構想基本方針が令和4(2022)年6月に示され、同年12月にはデジタル田園都市国家構想総合戦略が策定されました。 このような中、新型コロナウイルス感染症拡大による外出抑制の影響もあり浸透したテレワークは、オフィス回帰がみられる一方で、働き手の利用意向は依然として高く、場所を選ばない働き方へのニーズが高まり、住まい方や働き方が多様化しています。コロナ禍を契機として、ワーク・ライフ・バランスに関する意識変化や、身近な公園などのゆとりあるオープンスペースへのニーズの高まりも見られます。 そのため、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の向上や柔軟な働き方ができる環境づくりなどを進め、市民が幸せ(ウェルビーイング)を実感できる社会をめざしていく必要があります。 まちづくりにおいては、世界の多くの都市で街路空間を「車中心」から「人中心」の空間へ再構築し、人々が集い憩い多様な活動が繰り広げられる場へ転換する取り組みが進められています。本市においても、道路や公園などの公共的空間を活かし、より一層回遊性が高くにぎわいのある空間づくりが求められています。 そのため、居心地が良く歩きたくなるウォーカブルで魅力あるまちづくりを進めて、都市の活力向上を図る必要があります。 ※「雇用型テレワーカーの割合」、「ワーク・ライフ・バランスの意識変化」のグラフと「ウォーカブルなまちづくり」のイメージ図を掲載 脚注 シェアリング・エコノミー:個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む)を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活動。 サブスクリプション:一定の利用期間について定額料金が生じる取引・契約形態を指し、新聞の定期購読といった従来からあるサービスから、動画配信サービスなど、インターネットの発達により始まった比較的新しいサービスまでさまざまある。 27ページから28ページ (5)災害や感染症に対する懸念 本市では、過去に濃尾地震や伊勢湾台風、東海豪雨などの自然災害により大きな被害が発生しました。地震については、駿河湾以西の太平洋岸沖合にある南海トラフを震源とする大規模な地震の発生確率が今後30年以内で70~80%(40年以内で90%程度)と切迫度を増し、人的被害・建物被害など大きな被害が想定されています。 風水害についても、平成30(2018)年7月豪雨や令和元(2019)年東日本台風、令和2(2020)年7月豪雨など、記録的な大雨による甚大かつ広域的な災害が全国各地で多発しています。そのような災害に対応するため、平成27(2015)年に水防法が改正されたことを受け、本市も想定し得る最大規模の洪水・内水氾濫・高潮などの浸水想定区域を踏まえた新しいハザードマップを、令和4(2022)年3月から順次公表しました。 そのため、地震や風水害などの災害に対応するために、地域強靱化や流域治水の考え方に基づき、ハード・ソフト両面での防災対策を一層進めていく必要がありますが、大規模災害にも対応していくためには公助の取り組みだけではなく、自助・共助の取り組みをより一層強化していくことも重要となってきます。 また、新型コロナウイルス感染症は世界中に広がり、我が国においても感染者の急拡大による医療ひっ迫に加え、度重なる行動制限、それに伴う経済活動の停滞など、市民生活・経済活動全般にわたり大きな影響が及び、国全体で全力を挙げて各種対策等に取り組みました。本市においても、エッセンシャルワーカーをはじめ、市民・事業者・行政など、あらゆる主体が一丸となって、感染拡大防止や市民生活・経済活動の正常化に向けた取り組みを進めました。 この経験を活かし、今後いつ発生するかわからない感染症に対して、備えを強化していく必要があります。 ※「本市におけるあらゆる可能性を考慮した最大クラスの震度分布」、「本市における想定し得る最大規模の降雨に対するハザードマップ(洪水)」、「本市における新型コロナウイルス感染症新規陽性者数及び入院者数の推移」のグラフを掲載 29ページから30ページ (6)交流人口と交流圏の拡大 国内外からの本市への観光入込客、宿泊者数及び宿泊施設の稼働率は年々増加傾向にありましたが、新型コロナウイルス感染症による外国人観光客を含む観光需要が低下したことを受け、令和2(2020)年に大幅に減少しました。その後の入国制限の緩和に伴って回復傾向にありますが、今後の本格的な人口減少局面においても都市の活力を維持・向上していくためには、コロナ禍前の水準に留まらず、これまで以上に交流人口の増加を図っていく必要があります。 今後リニア中央新幹線の品川-名古屋間が開業すれば、移動時間が大幅に短縮され、東京圏との交流が盛んになると見込まれています。さらに全線開業すれば、7,000万人規模の世界最大の人口を有する巨大交流圏が形成され、本市はその中心都市となります。 さらに、当圏域においては、令和4(2022)年に開園したジブリパークや令和8(2026)年に開催されるアジア・アジアパラ競技大会、また令和9(2027)年度に供用開始予定の中部国際空港代替滑走路などにより、国内外問わず交流の拡大が期待されています。 これらのビジネス、観光などにおける交流拡大の機会を活かし、本市の魅力の向上・発信や受け入れ環境の整備を進めていく必要があります。 また、新型コロナウイルス感染症の影響で人の移動が制限されたことで、オンラインを活用した従来からの交流に加え、メタバースをはじめとした仮想空間を活用した交流も普及し始めており、今後もさまざまな領域での活用が期待されています。 そのため、本市においても仮想空間を含めたオンラインでの交流についても、今後の広がりを見据えながら交流圏の拡大を図っていく必要があります。 ※「本市における宿泊施設の延べ宿泊者数の推移」、「リニア中央新幹線開業(東京-大阪間)による交流圏の拡大」、「国際会議の開催件数の推移」、「世界のメタバース市場規模の推移と予測」のグラフまたはイメージ図を掲載 脚注 メタバース:コンピューターやコンピュータネットワークの中に構築された、現実世界とは異なる3次元の仮想空間やそのサービス。 31ページから32ページ (7)産業を取り巻く環境の変化 本市は、自動車などの輸送用機械を中心としたものづくり産業を中核とする名古屋大都市圏の中枢都市として発展してきました。名古屋大都市圏における製造品出荷額等は全国の約5分の1を占めており、東京圏や大阪圏を上回るとともに、名古屋港の総取扱貨物量は平成14(2002)年から22年連続日本一となるなど、当圏域は高い競争優位性を有しています。 一方で、少子化・高齢化の進行により生産年齢人口が減少しており、将来的には労働力不足の傾向が深刻化することによる経済の停滞が懸念されます。 さらに、海外経済の不確実性や、デジタル化や脱炭素化の加速による産業構造の変化など企業を取り巻く経営環境は厳しい状況となっています。 そのため、労働生産性の向上、産業人材の育成・確保を図るとともに、ものづくりをベースとしながら先端技術を積極的に取り入れ、新たな価値を創造し続けることで産業構造の変化に対応し、本市及び圏域の持続的な成長を図ることが必要です。 近年、GAFAに代表される巨大IT企業をはじめとして、世界中で、スタートアップが極めて短期間で大企業をしのぐほどに急成長し、産業構造のみならず、都市構造やライフスタイルまでにも変革をもたらし、世界経済をけん引しています。 我が国も、世界に羽ばたくスタートアップを創出するスタートアップ・エコシステムの形成とイノベーションによる社会課題解決の実現をめざしており、令和2(2020)年7月に愛知・名古屋及び浜松地域は、スタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」に選定されました。 そのため、イノベーションの創出が不可欠であり、その担い手であるスタートアップが持続的に創出されるエコシステムの構築が必要です。 ※「全国五大港の総取扱貨物量」、「スタートアップの地域別資金調達額の推移」、「就 業者1人1時間当たり労働生産性の推移」のグラフを掲載 33ページから34ページ (8)デジタル化の急速な進展 スマートフォンが急速に普及し、移動通信システムが生活・社会基盤として進化する中で、世界各国で5Gサービスの提供が開始され、4K・8Kのライブ配信やVR・ARなどのXR体験、多角的視点でのスポーツ観戦、遠隔手術、自動運転などへの活用が進展しており、国内外で6G/Beyond 5Gの検討も進められています。 また、AIについては、幅広い分野で活用されており、さらには対話型をはじめとした生成AIの技術が急速に発展し、活用が進んでいますが、個人情報保護や知的財産権の侵害などの課題もあり、国際的に議論がされています。 このような中、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を背景に非接触・非対面での生活様式が一層進展し、テレワークやオンライン会議、電子商取引(EC)の利用、電子決済、オンライン学習、イベントのハイブリッド開催などが浸透しました。 一方で、プライバシーやセキュリティ上の懸念、情報格差(デジタルデバイド)などデジタル化をめぐるさまざまな課題も顕在化しました。また、デジタル活用は、業務効率化が中心であり、新規事業の創出では少なく、業種や企業規模、地域などにより取り組み状況に差が生じているほか、デジタル人材が不足する現状となっています。 こうしたことを受け、国においては令和3(2021)年9月にデジタル社会形成基本法が施行され、デジタル庁が設置されました。また、本市においても、令和4(2022)年3月に名古屋市役所DX推進方針を策定し、デジタル技術やデータの活用を前提とした変革を進め、さらなる市民サービスの向上につなげていくこととしています。 今後も引き続き、デジタル化の恩恵をあらゆる人が享受できるようにするとともに、デジタル人材の育成・確保を図り、官民挙げてデジタル技術の実装を通じて社会課題を解決することにより、地域の暮らしの向上、地域経済の活性化、付加価値の創出につなげる必要があります。 ※「我が国におけるスマートフォンの世帯保有率の推移」、「スマートフォンやタブレットの年齢別利用状況」、「新型コロナウイルス感染症流行後の市内中小企業におけるデジタル化・DXの実施状況」のグラフを記載。 脚注 XR:現実世界と仮想世界を融合する技術の総称。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)に加え、ARをさらに発展させた技術であるMR(複合現実)などがある。 6G/Beyond 5G:5Gの特徴である超高速通信、超低遅延通信、多数同時接続の高度化に加え、超低消費電力、超安全・信頼性、自律性、拡張性が付加された次の移動通信システムの規格。令和12(2030)年頃の導入が見込まれている。 デジタルデバイド:パソコンやインターネットなどの情報技術を利用する能力や、情報技術にアクセスする機会の有無によって生じる情報格差。 35ページから36ページ (9)脱炭素社会の実現に向けた動きの加速 平成27(2015)年に採択されたパリ協定を受けて、世界各国において長期的な目標を見据えた地球温暖化対策が進められています。我が国では、令和3(2021)年に、「2050年までの脱炭素社会の実現」を基本理念として法定化した改正地球温暖化対策推進法が成立しました。そして、地球温暖化対策計画を改定し、令和12(2030)年度に温室効果ガスを平成25(2013)年度から46%削減することなどをめざすこととしています。 本市では、省エネルギーの推進や再生可能エネルギーの導入拡大などにより温室効果ガスの排出量は減少傾向にあります。このような中、令和4(2022)年4月にみなとアクルス(港区)が脱炭素の取り組みを通じて地域の課題の解決や暮らしの質の向上をめざす地域として国が定める「脱炭素先行地域」に選定されました。さらに、令和6(2024)年3月に地球温暖化対策実行計画2030を策定し、令和12(2030)年度に、平成25(2013)年度から52%削減することとしています。 また、グローバル企業を中心にRE100やSBTなどの「脱炭素経営」の取り組みが広がっています。加えて、世界では急速に電動車シフトが進み、自動車産業をはじめとする製造業を中心とした名古屋大都市圏の産業は、100年に一度といわれる産業構造の変化に直面しています。 さらに、令和5(2023)年4月に開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合の共同声明において、エネルギー安全保障を確保しながらグリーン・トランスフォーメーションを世界的に推進することなどが盛り込まれ、再生可能エネルギーに加え、水素エネルギー等の重要性が高まっています。 そのため、脱炭素化への対応を、経済成長の制約とするのではなく、成長の機会と捉え、積極的に脱炭素化を行うことで、本市の産業競争力を維持・向上させるとともに、脱炭素型ライフスタイルへの転換など地球温暖化対策を進めることが必要です。 ※「本市の温室効果ガス排出量の推移と目標」、「世界の電気自動車等台数の推移」、「国際エネルギー機関(IEA)のNZEシナリオにおける世界の水素等需要量の推移の見込み」のグラフを掲載 脚注 脱炭素社会:人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれた社会。 RE100:企業が自らの事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことをめざす国際的なイニシアティブ。世界的に影響力のある企業が参加している。 SBT:企業が5年から10年先を目標年として、パリ協定が求める水準と整合した自主的な温室効果ガス削減目標(科学的根拠に基づく削減目標:SBT)を設定し、認証機関から認定を受けるもの。 グリーン・トランスフォーメーション:産業革命以来の化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換すること。 NZE(Net Zero Emissions by 2050): 国際エネルギー機関(IEA)が公表した令和32(2050)年に世界でネットゼロを達成するシナリオ。