なごや子ども条例の改正についての考え方 令和元年11月5日 なごや子ども・子育て支援協議会 なごや子ども条例検討部会 P1 はじめに 名古屋市では、子どもの権利を保障するとともに、子どもの視点に立ち、子どもとともに最善の方法は何かを考え、子どもの健やかな育ちを社会全体で支援するまちを、市民が一体となってつくることを目的として、平成20年に「なごや子ども条例」を制定しました。 条例が制定されて10年以上が経過しましたが、この間、児童虐待やいじめ自死等、子どもの生命・生存の権利や子どもの健やかな育ちが侵害されている現状があります。 また、平成30年10月31日、なごや子ども・子育て支援協議会子どもの権利擁護部会から市へ提出された「名古屋市における子どもの権利擁護機関のあり方」についての意見書では「子どもを取り巻く環境は目まぐるしく移り変わっており、平成28年改正児童福祉法において、子どもの権利を保障することが明確に位置付けられたところである。このような状況を踏まえ、子どもの権利擁護機関の設立に際して、「なごや子ども条例」が、子どもの権利に関する基本条例であることを尊重しつつ、今一度、見直すべき個所がないか検討する ことについても、考えられたい」と提言されました。 市に提出された提言を受け、なごや子ども条例検討部会が設置され、当部会においては、今年が子どもの権利条約制定30周年という大きな節目を迎えた年であることを踏まえ、この間子どもの権利は守られてきたのだろうかと改めて振り返り、子どもは権利の主体であり、子どもの権利を根幹に据えるという観点から見直しを行う箇所がないかを検討し、次のように取りまとめましたので、報告いたします。 P2 改正についての基本的な考え方 名古屋市では、次世代育成支援策に総合的かつ機動的に取り組むことを目的とし、平成18 年に子ども青少年局が設置されました。平成20年には、「なごや子ども条例」が制定され、条例には「子どもの権利の保障」とともに、「子どもの施策を総合的に推進していく」という市の方針が示されています。市の方針としての施策の方向性や目指すべき姿については、今後も継承していくことが望ましいと考えます。 「子どもの権利の保障」に関し、子どもの権利を守る文化及び社会をつくり、子どもの最善の利益を確保するために、平成31年3月27日に「名古屋市子どもの権利擁護委員条例」が制定され、令和2年1月に子どもの権利擁護機関の設置が予定されています。 こうした流れを踏まえ、子どもは権利の主体であり、子どもの権利を根幹に据えるという観点から、「なごや子ども条例」について、子どもの権利を制限していると誤解される表現を見直し、子どもの権利について市民に正しく理解されるよう努めていくことが必要であると考えます。 特に、子どもの権利は責任を果たすことと引き換えに与えられるものではなく、生まれながらにして保障されるものであり、「責任」という表現については子どもの権利に関して誤解を招くおそれがあるため見直し、子どもの権利を保障するのは大人や行政の責務であるということをより明確にすることが望ましいと考えます。 改正すべき内容 1 名称 「なごや子ども条例」は、「子どもの権利の保障」と「子どもの施策を総合的に推進していく」という2つの側面を併せ持つことを名称として示しているという市の考えは理解しますが、子どもが権利の主体であり、権利がすべての生活の根幹にあるという考え方は、子どもの施策を推進していく上での出発点であると考えます。 平成28年改正児童福祉法において、子どもの権利を保障することが明確に位置づけられたこと、令和2年1月に子どもの権利擁護機関が設立されること等を踏まえると、子どもが権利の主体であり、子どもの権利を根幹に据えることを明確に表すために、「権利」という文言を名称に入れることが望ましいと考えます。 P3 2 前文 子どもの権利条約及び国内法の整備状況を踏まえるとともに、子どもは権利の主体であり、子どもの権利を根幹に据えることを明確にするという今回の改正の趣旨に鑑み、「子どもは権利の主体である」という文言を前文に掲げることが望ましいと考えます。 前述の「改正についての基本的な考え方」のとおり、「子どもの施策を総合的に推進していく」という市の方針、施策の方向性や目指すべき姿に関する内容については継承しつつ、子どもの権利にかかる記述については、子どもの権利を制限していると誤解される表現を見直すとともに、子どもの権利の保障についてより明確に示し、子どもの権利について市民に深く理解してもらえるよう修正することが望ましいと考えます。 条例全体を通して散見される「年齢や発達に応じて」という表現については、子どもの権利は年齢や学年にとらわれることなく、一人一人の発達段階に応じ保障されるものであるとの考え方に基づき、「一人一人の発達段階に応じて」と見直すことが望ましいと考えます。 「未来の名古屋を担う」という表現には、子どもに対する大人の思いが込められているものと考えますが、「担う」という言葉は、子どもが重荷に感じるおそれがある強い表現であると考えます。子どもの権利は責任を果たすことと引き換えに与えられるものではなく、生まれながらにして保障されるものであり、「子どもが権利の主体」であることを明確に示すため、子どもの主体性を強調した「名古屋の未来を拓く」という表現にすることが望ましいと考えます。 「名古屋」と「なごや」が混在していますので、統一することが望ましいと考えます。 3 定義 「なごや子ども条例」における大人は、市、保護者、地域住民等、学校等関係者及び事業者ですが、市及び事業者が定義されていませんので、一覧性を重視するという観点から、市及び事業者についても定義することが望ましいと考えます。 P4 4 第3条 子どもにとって大切な権利及び責任 第3条では、子どもの権利を規定する一方で、子どもの責任についても言及されていますが、子どもの権利は責任を果たすことと引き換えに与えられるものではなく、生まれながらにして保障されるものであり、相互に権利を認め合うことが他の人を尊重する態度につながることから、「責任」という表現については見直すことが望ましいと考えます。 また、「社会の責任ある一員であることを自覚し」及び「他者の権利を尊重するよう努めなければならない」という子どもが責任を負っていると誤解されかねない表現についても改め、「他者の権利を尊重することができるよう必要な支援を受けることができる権利を持っている」と見直すことが望ましいと考えます。 5 第4条 安全に安心して生きる権利 「なごや子ども条例」の制定以降、いじめや虐待に関する相談件数は増加しています。平成25年には、いじめの防止等のための対策を総合的かつ効果的に推進することを目的とした「いじめ防止対策推進法」が制定され、いじめの防止等のための対策に関し基本理念が定められ、国及び地方公共団体の責務が明示されました。平成28年には、「児童福祉法」や「児童虐待の防止等に関する法律」の改正がなされ、児童虐待防止対策の強化を図るため、児童の権利擁護、児童相談所の体制強化及び関係機関間の連携強化等の措置を講ずることについて規定されたほか、児童のしつけに際して体罰を加えてはならないことなどが規定されたところです。 こうした背景を踏まえ、虐待、体罰、いじめ等の権利侵害に対して必要な措置を講じることはもちろんのこと、大前提として、子どもは虐待、体罰、いじめ等から守られる権利があることをより明確に伝えるため、これらを具体的に記載することが望ましいと考えます。 また、第15条で、市が進める施策として「安全に安心して過ごすことができるための居場所づくり」が規定されていますが、児童虐待や不登校の問題などが深刻化している中、安心して過ごすことができる居場所があることを子どもの権利として明確に記載することが望ましいと考えます。 さらに、いじめや児童虐待など権利の侵害を受けた子どもについても、そのような状態から速やかに回復できるように適切な援助及び保護を受けられることを、子どもの権利として明確に記載することが望ましいと考えます。 P5 6 第6条 豊かに育つ権利 第6条に規定している権利は、どれもが子どもがのびのびと豊かに育つために必要な権利です。1つ1つの権利が大切にされるものであるということを子どもに理解してもらうために、1つ1つの権利を個別に規定することが望ましいと考えます。 7 第19条 調査研究等 「なごや子ども条例」の制定以降、条例の普及啓発に取り組んできたところですが、平成30 年度に名古屋市が実施した「子ども・若者・子育て家庭意識・生活実態調査」では、「なごや子ども条例」を「知らない」と回答した割合が全体の70%以上という結果が出ています。 名古屋市子どもの権利擁護委員条例において、委員は、子どもの権利を守る文化及び社会をつくり、子どもの最善の利益を確保するため、子どもの権利に関する普及啓発を行うこととされています。 児童の権利に関する条約第42条においては、締結国の広報義務が規定されています。「なごや子ども条例」では、広報に関し、第19条 調査研究等の中の第2項に規定されているところですが、現在のなごや子ども条例の認知度や子どもの権利擁護委員の責務等を踏まえ、権利擁護委員とともに市が積極的に広報や普及啓発に取り組んでいく姿勢を明確にするため、広報義務について独立の条文として規定することが望ましいと考えます。 P6 8 子どもの参画 現状の条例は、前文だけがです・ます調になっており、条文はで・ある調になっています。子どもにわかりやすく伝え、理解してもらえる条例にするため、条文もです・ます調にすることが望ましいと考えます。 子どもの権利や「なごや子ども条例」について、子どもにわかりやすく伝えられるよう、やさしい表現を用いた子ども版のパンフレットを作成したり、日常的に目にすることができる場所に掲示したりするなど、啓発物や周知方法に工夫しながら、子ども向けの広報を行っていくことが必要であると考えます。 権利の主体である子どもが、「なごや子ども条例」や施策の推進にかかる検討に主体的に参画し、意見を表明することができるよう、子ども会議を設置し、子どもの意見を尊重していくことが望まれます。 9 おわりに 「なごや子ども条例」の制定からこの間、社会情勢や子どもを取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、今後も変化し続けていくことが予測されます。また、そうしたことを背景として、子どもの権利に関する新たな概念が生じ、権利意識が醸成されていくことも考えられます。 そのため、今後も子どもの権利に関する潮流を的確に把握し、必要があると認めるときには条例の内容を適宜見直すことができるよう、附則に規定しておくことが望ましいと考えます。 子どもは権利の主体であり、権利はすべての生活の根幹にあるものです。子どもの権利を保障し、子どもの健やかな育ちを社会全体で支援するまちの実現を目指し、引き続き不断の努力によって検討、追求していくことを要望するとともに、これまで以上に普及啓発の取り組みを促進することにより、子どもの権利を守る文化が醸成されていくことを心から願っています。