名古屋市障害のある人もない人も共に生きるための障害者差別解消推進条例 目次  前文  第 1章 総則(第 1条―第 7条)  第 2章 障害を理由とする差別の禁止(第 8条―第12条)  第 3章 障害を理由とする差別を解消するための体制(第13条―第19条)  第 4章 障害を理由とする差別の解消を推進するための施策(第20条―第26条)  附則  誰もが、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を有するかけがえのない個人として尊重される地域社会の実現は、全ての名古屋市民の願いです。  近年、障害者の権利に関する条約、障害者基本法、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律等の趣旨に沿った取組により障害者への理解が進んできたものの、今なお、障害者に対する誤解や偏見があり、また、見た目ではわからない障害者に対して周囲の理解が不十分であることから、障害者の自立や社会参加が妨げられているという現状が存在しています。  こうした状況を解決するためには、誰もが高齢になることに伴う身体機能の低下、事故や疾病などにより、障害を有することになる可能性があることを認識し、障害を理由とする差別を障害のある人とない人の区別なく全ての人に共通する課題として捉え、取り組んでいくことが重要です。 それとともに、子どもの頃から障害の有無にかかわらず一緒に学び遊ぶ中で、正しい知識や理解を深めることも求められます。 このような認識の下、市、事業者及び市民が一体となって、障害を理由とする差別の解消の推進に取り組み、障害のある人もない人も誰もが等しく基本的人権を有するかけがえのない個人として、お互いを思いやる気持ちを持ちながら、安心して共に生きることのできるまち・なごやをつくることを決意し、この条例を制定します。    第 1章 総則  (目的) 第 1条 この条例は、障害を理由とする差別の解消の推進に関し、基本理念を定め、市、事業者及び市民の責務を明らかにするとともに、障害を理由とする差別の解消を推進するための基本となる事項を定めることにより、障害の有無にかかわらず、誰もが人格と個性を尊重され、住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の実現に寄与することを目的とする。  (定義) 第 2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 (1) 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、難病( 治療方法が確立していない疾病その他の特殊な疾病をいう。)等を原因とする障害その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的又は断続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 (2) 社会的障壁 障害者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 (3) 不当な差別的取扱い 正当な理由なく、障害を理由として、障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすることをいう。 (4) 合理的配慮 障害の有無にかかわらず誰もが実質的に同等の日常生活又は社会生活を営むことができるよう、障害者(障害者が意思の表明を行うことが困難である場合にあっては、その家族等)の求めに応じて、必要かつ適切な現状の変更又は調整を行うことをいう。ただし、社会通念上その実施に伴う負担が過重になるものを除く。 (5) 障害を理由とする差別 不当な差別的取扱いをすること又は合理的配慮をしないことをいう。 (基本理念) 第 3条 障害を理由とする差別の解消の推進は、障害の有無にかかわらず、誰もが等しく基本的人権を生まれながらにして有する個人として尊重され、地域で自立した生活を営む権利が保障されることを前提として、次に掲げる基本理念に基づき行う。  (1) 全ての障害者が、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。  (2) 全ての障害者が、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共に暮らすことを妨げられないこと。  (3) 全ての障害者が、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段及び情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、意思を決定することが困難な障害者に対する支援が確保されること。 (4) 全ての障害者は、障害があることに加え、性別、年齢その他の複合的な要因により特に困難な状況に置かれている場合には、その状況に応じた適切な配慮がなされること。  (5) 障害を理由とする差別の解消に当たっては、差別する側と差別される側とに分け、相手方を一方的に非難し、又は制裁を加えようとするものであってはならず、当事者間の建設的な対話による相互理解を基本とすること。 (6) 災害時において障害者の安心・安全が確保されるよう、障害の特性に応じた適切な配慮がなされること。 (7) 家庭、学校をはじめとする社会のあらゆる場面において、子どもの頃から障害に関する知識や理解を深め、障害の有無にかかわらず共に助け合い、学び合う心をはぐくむこと。 (市の責務) 第 4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっと り、障害及び障害者に関する理解の促進を図るとともに、障害を理由とする 差別の解消に関する施策を総合的かつ計画的に実施するものとする。 2 市は、障害を理由とする差別の解消に関する施策を実施するため、必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。  (事業者の責務) 第 5条 事業者は、その事業を行うに当たっては、基本理念にのっとり、障害及び障害者に関する理解を深め、障害を理由とする差別の解消について必要な措置を講ずるよう努めるものとする。 2 事業者は、市が実施する障害を理由とする差別の解消に関する施策に協力するものとする。  (市民の責務) 第 6条 市民は、基本理念にのっとり、障害及び障害者に関する理解を深め、障害者が日常生活又は社会生活において直面する課題について共に考え、解決を図り、地域で誰もが共に暮らしていくための良好な環境づくりに努めるものとする。 2 市民は、市が実施する障害を理由とする差別の解消に関する施策に協力するものとする。 (事前的改善措置) 第 7条 市(市が設立した地方独立行政法人を含む。次条、第 9条及び第11条において同じ。)及び事業者は、合理的配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。    第 2章 障害を理由とする差別の禁止 (市及び事業者における不当な差別的取扱いの禁止) 第 8条 市及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、正当な理由によりやむを得ない場合を除き、障害を理由として次に掲げる取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 (1) 福祉サービスを提供する場合における次に掲げる取扱い ア 福祉サービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。    イ 福祉サービスの利用に関する適切な相談及び支援を行うことなく、障 害者の意思に反して、障害者支援施設等への入所又は入居を強制するこ と。  (2) 医療を提供する場合における次に掲げる取扱い ア 医療の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。   イ 障害者の意思に反して、医療を受けることを強制すること。  (3) 教育、療育又は保育を行う場合における次に掲げる取扱い   ア 障害者の年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育、 療育又は保育が受けられるようにするために必要な指導又は支援を行わないこと。   イ 障害者又はその保護者の意見を聴かず、若しくは意思を尊重せず、又 はこれらの者に必要な説明を行わずに就学すべき学校を決定すること。  (4) 労働者を雇用する場合における次に掲げる取扱い   ア 応募若しくは採用を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。   イ 賃金、労働時間、配置、昇進、教育訓練、福利厚生その他の労働条件について不利益な取扱いをすること。  (5) 商品を販売し、又はサービスを提供する場合において、商品の販売若し くはサービスの提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付け、 その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。 (6) 不動産の取引を行う場合において、不動産の売買、賃貸、転貸若しくは賃借権の譲渡を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。 (7) 不特定多数の者の利用に供されている建物その他の施設又は公共交通機関を利用する場合において、建物その他の施設若しくは公共交通機関の利用を拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。 (8) スポーツ、文化芸術活動その他の生涯学習活動を行う場合において、スポーツ、文化芸術活動その他の生涯学習活動を行うことを拒否し、若しくは制限し、又はこれらに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。 (9) 障害者へ情報の提供をする場合又は障害者から意思の表示を受ける場合における次に掲げる取扱い ア 情報の提供を拒否し、若しくは制限し、又はこれに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをすること。   イ 障害者から意思の表示を受けることを拒否し、若しくは制限し、又は これに条件を付け、その他障害者でない者と異なる不利益な取扱いをす ること。  (10) 前各号に掲げるもののほか、障害者でない者と異なる不利益な取扱い をすること。  (市が行う合理的配慮の提供) 第 9条 市は、その事務又は事業を行うに当たり、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をしなければならない。 2 市は、障害者を雇用する場合において、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をしなければならない。  (事業者が行う合理的配慮の提供) 第10条 事業者は、その事業を行うに当たり、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をするよう努めなければならない。 2 事業者は、障害者を雇用する場合において、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮をしなければならない。  (市及び事業者の判断に係る内容の説明) 第11条 市及び事業者は、不当な差別的取扱いに該当しない正当な理由があると判断する場合及び合理的配慮の不提供に該当しない過重な負担になると判断する場合には、障害者にその内容を説明し、理解を得るよう努めるものとする。  (事業者における適切な対応) 第12条 事業者は、その事業を行うに当たっては、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)第11条第 1項に規定する対応指針に即して、適切な対応に努めるものとする。    第 3章 障害を理由とする差別を解消するための体制  (相談) 第13条 市は、障害を理由とする差別に関する相談(以下「差別相談」とい う。)に的確に対応するため、法第14条の規定に基づき、名古屋市障害者差別相談センター(以下「差別相談センター」という。)及び地域の相談窓口を設置する。 2 障害者及びその家族その他の関係者(以下「障害者等」という。)又は事 業者は、差別相談センター又は地域の相談窓口に対し、差別相談を行うことができる。 3 差別相談センター及び地域の相談窓口は、差別相談を受けた場合には、必要に応じて、事実の確認を行い、次に掲げる対応を行う。ただし、地域の相談窓口が差別相談を受け、第 2号の対応を行う必要があると判断する場合は、差別相談センターに引き継ぎ、その対応を行う。 (1) 説明又は助言 (2) 差別相談に係る当事者間の調整(差別相談について必要な調査を含む。以下「調整」という。) (3) 関係行政機関に対する通報その他通知 4 差別相談の相手方となる事業者は、障害者等が差別相談を行ったことを理由として、事業の利用を禁止し、又は制限し、その他不利益な扱いをしてはならない。 5 市は、差別相談センター事業の全部又は一部を障害者の相談支援を行う者に委託することができる。 (名古屋市障害者差別解消調整委員会) 第14条 市長の附属機関として、名古屋市障害者差別解消調整委員会(以下「 委員会」という。)を置く。 2 委員会は、市長の求めに応じて、差別相談に係る事案の解決を図るための助言又はあっせんを行う。 3 委員会は、委員 6人以内をもって組織する。 4 委員は、学識経験者、障害者又はその家族、障害者の自立及び社会参加に関する事業に従事する者、事業者を代表する者その他市長が必要と認める者のうちから、市長が委嘱する。 5 委員の任期は 2年とし、補欠委員の任期は前任者の残任期間とする。 6 委員は、再任されることができる。 (助言又はあっせんの申立て) 第15条 障害者等は、差別相談センターが調整を行ってもなお差別相談に係る事案が解決しないときは、市長に対し、必要な助言又はあっせんを行うよう申立てをすることができる。ただし、当該申立てをすることが当該障害者の意思に反することが明らかであると認められる場合は、この限りでない。 2 前項本文の規定は、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第 123号)第74条の 5に規定する紛争については適用しない。 (助言又はあっせんの申立てに係る調査) 第16条 市長は、前条第 1項本文の申立てがあった場合において、当事者その他の関係者に対し、当該申立てに係る事実について必要な調査を行うものとする。ただし、差別相談センターにおいて、調整を行うために、既に必要な調査が行われており、かつ、当事者の同意がある場合においては、この限りでない。 2 当事者その他の関係者は、正当な理由がある場合を除き、前項本文の調査に協力しなければならない。 (助言又はあっせん) 第17条 市長は、委員会に対し、前条第 1項本文の調査の結果(同項ただし書の場合にあっては、その調査の結果)を通知するとともに、助言又はあっせんを行うよう求めるものとする。 2 委員会は、前項の規定により助言又はあっせんを行うよう求められたときは、助言又はあっせんを行うものとする。ただし、助言若しくはあっせんを行う必要がないと認めるとき又は事案の性質に照らし助言若しくはあっせんを行うことが適当でないと認めるときは、この限りでない。 3 委員会は、前項本文の助言又はあっせんを行うために必要があると認めるときは、当事者その他の関係者の出席を求めて説明又は意見を聴くこと、これらの者に資料の提出を求めることその他の必要な調査を行うことができる。 4 委員会は、申立てへの対応結果を当事者に通知するとともに、市長に報告するものとする。 (措置の求め) 第18条 委員会は、差別相談に係る事案の解決を図るため、市長に対して、次の各号のいずれかに該当する者に必要な措置を講ずるよう求めることができる。  (1) 正当な理由なく、あっせん案を受諾しない事業者又は受諾したあっせん案に従わない事業者 (2) 正当な理由なく、前条第 3項の調査を拒んだ障害者等又は事業者 (3) 前条第 3項の調査に虚偽の説明又は資料の提出をした障害者等又は事業者 (勧告等) 第19条 市長は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、必要があると認 めるときは、差別相談に係る事案の解決に必要な措置を講ずるよう勧告する ことができる。 (1) 前条の規定による求めがあった場合における前条各号に掲げる者 (2) 正当な理由なく、第16条第 1項本文の調査を拒んだ障害者等又は事業者 (3) 第16条第 1項本文の調査に虚偽の説明又は資料の提出をした障害者等又は事業者 2 市長は、前項の規定による勧告を受けた者が、正当な理由なく、当該勧告に従わないときは、あらかじめその者に意見を述べる機会を与えた上で、その旨を公表することができる。    第 4章 障害を理由とする差別の解消を推進するための施策 (啓発等) 第20条 市は、事業者及び市民の障害及び障害者に対する理解と関心を深めるために必要な広報その他の啓発活動を行うとともに、障害の有無にかかわらず、全ての人が相互理解を深めることができる機会及び情報の提供を行うものとする。  (教育上の支援) 第21条 市は、障害のある幼児、児童及び生徒が、可能な限り障害のない幼児、児童及び生徒と共に学び、必要な教育を受けることができるよう、医療機関、福祉施設その他の関係機関と連携し、必要な支援を行うものとする。  (手話言語の普及) 第22条 市は、手話が独自の体系を有する言語であるとの認識に基づいて、事業者及び市民において手話の利用が普及するよう、必要な施策を講ずるものとする。  (意思疎通手段の利用の促進) 第23条 市は、手話、点字、音声、文字表示、わかりやすい表現、絵図の提示、 情報支援機器(情報の取得及び意思疎通を容易にするための機器をいう。)その他の意思疎通手段(意思疎通手段を利用するときの補助を含む。)であって障害の特性に応じたものの利用の促進を図るものとする。  (災害時の支援) 第24条 市は、災害発生時その他緊急時において、障害者に対し、その安全を確保するために必要な支援を行うとともに、意思疎通を図ることが困難な障害者に対し、その障害の特性に応じた情報の提供を行うものとする。  (名古屋市障害者差別解消支援会議) 第25条 市は、地域における障害を理由とする差別の解消の推進について情報を共有し、その取組を効果的かつ円滑に行うため、法第17条第 1項の規定に基づき、名古屋市障害者差別解消支援会議を設置する。  (委任) 第26条 この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。  附 則  (施行期日) 1 この条例は、平成31年 4月 1日から施行する。  (検討) 2 市長は、この条例の施行後 3年を経過した場合において、この条例の施行の状況及び社会情勢を勘案し、この条例の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の見直しを行うものとする。